第3章
その言葉を吐き捨て、踵を返して歩き出した。
父のマーカスは言っていた。ライカン王が政略結婚に前向きだと聞いたとき、ケインの父親は喜びのあまり泣きそうになったらしい。こちらに名誉だと、礼を言っても言い足りないほどだったと。
その傲慢な息子が、たった一人でその取り決めをズタズタに引き裂いたと知ったら、いったいどうなる?
だが、もう私の問題じゃない。こんな愚か者どもに時間を無駄にするのは終わりだ。
「そこに止まりなさい!」
ブライアが突進してきて、爪を私の腕に深く食い込ませた。
「私の指輪を盗んで、ケインの前で私を恥かかせて、それでのこのこ出ていけると思ってるの? 夢見てんじゃないわよ!」
彼女は手を高く振り上げ、私の頬へ悪意に満ちた平手打ちを叩き込もうとした。
私は宙でその手首を掴み、突き飛ばした。ブライアはよろめき、床に激しく叩きつけられる。
たちまち目に涙を溜め、「ケイン! この女が私を殴った! まさか、私がいじめられてるのを黙って見てるつもり!?」と叫んだ。
息が詰まるほど暴力的なアルファの気配が、部屋をなぎ払った。
ケインが大股で近づき、床からブライアを抱き起こして、その身体を所有するように腕の中へ閉じ込めた。
「ブライアを傷つける奴は、生きてこの領地から出られない。」
彼が手首を軽く振ると、戦士たちが私に迫ってきた。
最初に飛びかかってきた畜生の胸に、容赦なく蹴りを叩き込む。だが数が多すぎた。
痛みが弾けた。膝をつかされ、腕を乱暴に背中へねじ上げられる。屈辱のまま、ケインのブーツの目の前で地面に押さえつけられた。
ケインは見下ろし、瞳には侮蔑しかない。次いでブライアへ向き直り、吐き気がするほど甘い声で言った。
「好きに仕返ししろ。俺がついてる。」
ブライアの目に、残酷な光が走った。
彼女は私のところまで歩み寄り、むき出しになった私の手に踵を思い切り踏みつけた。尖った先が指の骨にめり込み、息を呑む。それでも私は歯を食いしばり、叫ぶまいと耐えた。
ブライアは、私の指にはまった月長石の銀の指輪を見下ろし、歪んだ笑みを浮かべる。
「この指輪があんたの手にあるなんて無駄よ。そんなに好きなら、親切にしてあげる――指ごと置いていきなさい。」
彼女は近くの戦士の腰帯からナイフを引き抜いた。
冷たい刃が肌に押し当てられた瞬間、むき出しの恐怖がついに平静を叩き割った。
「やめて! 触らないで!」私は必死にもがいた。
「ほかのものをあげる! 首飾りでも、十倍の価値の冠でも! だから、お願い、やめて!」
ブライアは懇願など聞きもしない。しゃがみ込み、汗で濡れた私の頬に刃をこつこつと当てた。
「でも、今ほしいのはこれなのよ。」
刃が振り下ろされた。
ぞっとする骨の砕ける音が響き、血が床へ飛び散った。月長石を載せた薬指の先が、容赦なく切り落とされたのだ。
悲鳴が喉を引き裂き、身体が制御不能に痙攣する。冷や汗が背中をぐっしょり濡らした。
「もしあなたのお母様がまだ生きていたら……」私は頭を反らし、血走った目でケインを睨みつけた。
「あなたに選んだ伴侶を、あなたがこんなふうに扱うと知ったら、すべてを後悔する! これは必ず償わせる!」
ケインの顔が、激しい怒りで歪んだ。
「母親のことを持ち出すな。」彼は唾を吐くように言った。
「お前の父親が欲しかったのはブラッドムーンの軍事力だけだ。だからこんな安っぽい政略結婚の茶番を押しつけてきた。自分の娘を売り飛ばす寄生虫どもを、俺が受け入れると本気で思ったのか?」
ブライアが甲高く笑った。
「聞いた? あんたの父親はあんたを取引の駒として育てたのよ! 家族そろってゴミだから、安い尻軽女みたいなのが出来上がったってわけ!」
拷問だってできる。指を切り落とすことだってできる。だが、父をあんなふうに侮辱することだけは、誰にも許さない!
戦士たちの拘束が一瞬ゆるんだ、その刹那を逃さず、私は獣じみた力で弾けた。腕を振りほどき、飢えた狼さながらブライアへ飛びかかる。
手は使わない。口を開き、彼女の耳に歯を叩きつけるように噛みついた。
脆い軟骨に歯が突き立ち、熱い血がどっと口の中へ流れ込む。鉄臭さが重くまとわりつく。全身の力を振り絞り、私は残忍に後方へ引きちぎった!
肉が裂ける音が、ブライアの苦痛の悲鳴と同時に弾けた。私は彼女の耳を半分、きれいに噛みちぎっていた。ブライアはよろめきながら後ずさり、血が指の間から噴き出すのも構わず、顔の横を必死に押さえる。
痛みと恐怖で、彼女の理性は完全に壊れた。
「このサイコ! このクソ女!」ブライアは金切り声を上げると、戦士たちへ怒鳴りつけた。
「押さえつけて! 裸にしなさい!」
そしてケインと視線を絡める。
「あんたの男たちに『相手』させて。今日のこと、一生忘れられないようにしてやりたいの。」
ケインは何も言わなかった。沈黙は同意だった。
戦士たちは躊躇しない。獲物を見るような笑みを浮かべて、私に飛びかかってきた。
「離して!」必死にもがき、暴れる。だが圧倒的な力でねじ伏せられ、何もできない。
服が乱暴に引き裂かれた。ちょうどそのとき、ポケットの携帯端末が鳴り始める。
ブライアがそれをひったくり、発信者表示を一瞥した。唇に陰険な笑みが這い上がる。
「役立たずのパパから? ちょうどいい。可愛い娘が叫ぶの、聞かせてあげる。」
彼女はスピーカー通話にした。端末から父の声が響く。
「セレナ? 指輪は手に入れたか?」
その声を聞いた瞬間、目が熱くなった。
「お父さん!! 助けて!! 指を切られたの! 襲おうとしてる!!」
ブライアが鼻で笑い、しゃがみ込んでマイクへ嘲るように言い放つ。
「へえ、あんたがこの尻軽の父親? 娘は私の耳を噛みちぎったわ。礼なんていらない。うちの子たちに、従順な尻軽の躾け方を教えてやってるだけよ。」
父が再び口を開いたとき、その声は低く唸る雷鳴のようだった。
「お前が誰であろうと構わん。今すぐ娘を放せ。さもなくば、お前とお前の群れに、支払えぬ代償を払わせる。」
ブライアは声を上げて笑った。
「脅し? やれるもんならやってみなさい。見せてもらいたいわ。」
彼女は通話を切り、端末を投げ捨てると、戦士たちへ唾を吐くように命じた。
「続けなさい。止めるんじゃないわよ。」
さらに残酷に布が裂ける音が続いた。
私は身体を小さく丸め、固く縮こまる。屈辱と絶望が容赦なく胸を殴った。壊されることが怖いんじゃない。怖いのは、ナイトシェードの名に泥を塗ることだけだった。
服が完全に裂き取られ、下着だけになった、その瞬間――
宝飾店のガラス扉が、凄まじい勢いで爆ぜ飛んだ。
破片が榴散弾のように降り注ぎ、衝撃波が近くの戦士たちを床へ吹き飛ばす。
完全武装の精鋭護衛が百名、濁流のように雪崩れ込み、一瞬で店内を封鎖した。
音という音が、瞬く間に消え失せた。
父が、砕け散った入口を踏み越えて歩み入る。
冷たい視線が荒れ果てた店内をなぞり、最後に私へと固定された――床の上で丸まり、血にまみれ、衣服をズタズタに裂かれた私へ。
その刹那、室内の温度が絶対零度まで落ちたかのようだった。
父はゆっくり顔を上げる。瞳の奥で渦巻くのは、殺意に染まった嵐。
「俺の娘に手を出したのは、どいつだ?」
