第20章

橘陸斗は床に転がる女を見下ろした。氷青の瞳に映るのは、杉山夕晴の血と肉でぐずぐずになった顔。

――これが、記憶の中のあの女なのか。

かつて橘陸斗は両目を失い、並の人狼以下にまで落ちていた。

父である先代アルファが死んだあと、群れの連中はこぞって彼のすべてを奪おうとした。

その三年間、ずっと傍にいたのは杉山夕晴だった。

彼女は己の幽影の狼魂を使い、本源の力を何度も削りながら、陸斗の目を治した。

血脈覚醒の地獄のような苦しみを支え、彼が橘の群れのアルファの座を確かなものにするまで見届けた。

あの頃の彼は、背中も命も、この女に預けていた。

なのに、どうだ。

この女は何度も彼を裏切...

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