59、

首筋には、まだ温かな吐息の名残がある気がした。

けれど次の瞬間、治癒を終えた橘陸斗の氷青の瞳が、冷ややかに彼女を見下ろしていた。そこに宿るのは温度ではない。ただ、底のない嫌悪と凍てつく冷たさだけ。

「苦しむのは、あいつが受けるべき報いだ」

「ちが……う……あの人、じゃ……ない……」

杉山夕晴は泥水の中に伏し、大きく息を吸っては吐いた。唇の端から、どろりと赤黒い血泡がこぼれ落ちる。

焦点の合わないその目は、虚空のどこかを必死に見据えていた。指先が空を掻くように、ひくりと動く。

「橘陸斗……杉山雨音は……嘘つき……」

「昔、暗黒の森で……あなたを助けたのは……あの女じゃない……わた...

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