60、

その温もりだけが、いまの杉山夕晴をかろうじて繋ぎ止めていた。

唇が震える。

「陸斗……」

意識が霞む。

暗黒の森の木のうろで、ぎゅっと抱きしめてくれた少年――命を懸けて守ると誓った、あの背中がよみがえる。

けれど次の瞬間、幻は霧散した。

杉山夕晴は全身の力をかき集め、重たい瞼をほんのわずかこじ開ける。

そこに、高く伸びた影はない。

見慣れた氷青の瞳もない。

隣に横たわっていたのは、小さな身体だった。

「ママ……」

やわらかな泣き声が、耳元で震えた。

星ちゃん。

高窓から漏れる月光を頼りに、夕晴は娘の真っ青な顔を見て息を呑む。

星ちゃんは夕晴の首にしがみつき、離れま...

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