第54章

それが、彼女をひどく苛立たせた。

子どもの頃から、彼はずっとこうやって彼女を縛ってきた。

大人になれば変わると思っていたのに――結局、何ひとつ変わっていない。

彼にとって自分は、最後まで「妹」。ただそれだけ。

「……兄さん」

椅子を引いて腰を下ろし、そっと手を握ろうとする。

けれど阿部蓮はすっと手を上げて避け、淡々と言った。

「詩織。もう大きいんだ。男女の距離ってものを覚えろ」

高橋詩織の指がきゅっと握りこまれ、拳になる。やがて全身から力が抜けた。まるで穴の開いた風船みたいに、しゅうっと。

「兄さん……痛くないの?」

「痛くない」

「お水、持ってくる」

「いらない」

...

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