第91章

「阿部家に育ててもらったお前だから、俺も情けをかけてやった。藤井修の末路は、あんなもんじゃ済まなかったはずだ……」

藤井修は腕時計をちらりと見た。中に入ってから三十分。休憩は二時間って約束だし、今は催促するつもりもない。詩織の控室のドアへ目をやり、踵を返そうとした、その瞬間。

ドアが開いた。

藤井修が振り向くと、阿部蓮が両手をポケットに突っ込んだまま出てくるところだった。

視線がぶつかる。

阿部蓮の瞳は、淡々としていて、そこには感情の欠片もない。見下ろす目つきは、まるで蟻でも眺めるみたいだった。

藤井修はぞくりとして、足が床に縫い付けられたように動けない。阿部蓮は一言も発さず、す...

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