第百四十四章

「どうぞ」

詩音は顔を上げることもなく言った。

やがて目の前にふっと影が落ち、すらりとした指が軽く曲げられ、デスクの天板をこつこつと叩いた。

詩音は無意識にその手へと視線を向け、わずかに動きを止めた。そのまま指先から腕へと視線を這わせると、淡々とした中に微かな笑みを湛える悟の双眸とぶつかった。

彼女は小さく息を呑み、驚きを隠せずに声を漏らす。

「悟?」

引き出しを閉め、背筋を伸ばす。目の前の人物への驚きから、無意識のうちに椅子から立ち上がっていた。

「どうしてここに?」

その声には驚きが混じっていたが、語尾がわずかに弾んでおり、自分でも気づかないほどの喜びが滲み出ていた。

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