第16章

男の長身の背中がドアの向こうへ消えても、詩音は静かにその場に立ち尽くしていた。

悟という名は、彼女にとって決して耳慣れないものではなかった。

伝説的で謎に包まれたこのベンチャーキャピタルのトップについて、業界では『眼力が鋭く、手腕は雷霆の如く凄まじい』と噂されている。彼が目を付けたプロジェクトは、例外なく驚異的な成功を収めていた。

だからこそ、当時の和也は血眼になって、必死に彼とのパイプを作ろうとしていたのだ。

しかし悟は何度となく、和也が差し出したオファーを容赦なく撥ね退けた。

詩音は我に返り、息子に向かって手招きした。

「さあ、帰るわよ。ママが送っていくから」

蓮は短く返事...

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