第53章

すべてを掌握しているつもりだった。彼女を閉じ込めてさえいれば、この形ばかりの結婚を維持できると信じていた。

だが今、生気を失い横たわる彼女を目の当たりにして、彼は唐突に悟った。一度壊れたものは、二度と元には戻らないのだと。

意織は夢の中で走り続けていた。背後には果てしない闇が迫っている。

深の名前を呼ぼうと口を開いても、声は一切出なかった。

やがて見えたのは、神聖な教会で夏菜と手を取り合い、指輪を交換する深の姿だった。意織は瓦礫の中に立ち尽くし、すべてが灰に帰すのをただ見つめているしかない。

「いや……」

意織の唇から微かなうめきが漏れ、目尻から滑り落ちた一粒の涙が枕の奥へと吸い...

ログインして続きを読む