第29章 臭い口

夏目嵐を落ち着かせた後、佐藤絵里はついでにホテルに立ち寄った。

坂田和也は彼女を見た瞬間、喜びに満ち溢れ、長い間彼女をきつく抱きしめてから、頬を伝う涙を拭った。

「この薄情な小娘め、このじいさんのことなんて少しも思い出さなかったんだろう!」

「自分でよく考えてみろ、前に会ってから今まで、どれだけ時間が経ったと思う?」

佐藤絵里は持ってきた菓子を卓上に置き、少し考え込んで、「確かに長かったですね」と言った。

「バカ娘」

佐藤絵里は既に白髪交じりになった坂田和也を見つめた。彼の顔には細かいしわが刻まれ、慈愛に満ちた表情で、濃厚な喜びの笑みを浮かべていた。まるで飴をもらった子供のようだ...

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