第50章 寝る前の映画

佐藤絵里は木陰で彼を待っていた。

少し距離があるせいで、彼が誰と話しているのかまでは聞き取れない。ただ、彼の周囲に漂う空気が、ますます冷え込んでいくのを感じた。

うだるような真夏日だというのに、絵里はまるで天然のクーラーのそばにいるかのような、心地よい涼しささえ感じていた。

「用件はそれだけか」

藤原青樹の声は氷のように冷たい。片手をポケットに突っ込んだままの立ち姿は、どこまでも冷酷に見えた。

電話の向こうの相手が問い返す。

『あら、じゃあ他に何があるっていうの』

「行かない」

青樹はそう言い捨て、スマートフォンを耳から離した。だが、相手は彼の一挙手一投足を監視し...

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