第55章 退いて進む

南山六也は床に崩れ落ちた佐藤絵里へと歩み寄り、手を差し伸べた。

だが、絵里は平然とその手をかわすと、独力で立ち上がった。

「大丈夫よ。妹も、悪気があったわけではないのでしょうから」

その白々しい態度に、佐藤愛は腸が煮え繰り返る思いだった。

鋭い爪が掌に深く食い込み、眉間には苦々しい皺が刻まれている。

「佐藤絵里、あんた……っ!」

「もういい!」

愛が感情のままに何かを口走りそうになるのを、佐藤翔は慌てて遮った。

「喧嘩はやめなさい!」

「愛、早く南山君にお茶を淹れてきなさい」

愛は不満げに床を蹴り、赤い唇を尖らせると、悔しさと悲しみを滲ませた瞳で南山六也を見上げた。

泣...

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