第119章 手に入らないこそ良さそう

洗面所は男女共用だった。

磨き上げられ、塵一つない大きな鏡に、二人の姿がはっきりと映り込んでいる。

ざあざあと流れていた水の音が、ぴたりと止んだ。

辺りは針一本落ちても聞こえそうなほど静まり返る。

瀬央千弥の耳には、御影星奈の声がこだましていた。

彼の瞳には複雑な感情が揺らめき、しばらくして眉を顰めて言った。「伽耶ちゃんを食事に連れてきただけだ」

つまり、つけてきたわけではない、と。

御影星奈の自意識過剰だと言いたいのだ。

男は御影星奈の表情を注意深く窺うが、彼女はただ眉を上げて唇を歪め、嘲るような視線を向けるだけだった。

その眼差しには見覚えがあった。

御影星奈と離婚し...

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