第6章 合格な元恋人は死んだようにすべき

御影星奈が指定された個室のドアの前まで来ると、中へ入ろうとドアを押した瞬間、両脇から「パンッ」という音が数回響き、頭上からキラキラした装飾の欠片が舞い落ちてきた。

「御影さん、誕生日おめでとう!」

「我らが御影さん、お誕生日おめでとうございます!」

明るく澄んだ声が突如として響き渡り、個室の照明が薄暗い状態から一気に明るくなった。

雲野悠が花束を抱えて御影星奈の前に歩み寄り、やんちゃで格好いい顔に笑みを満面に浮かべている。

個室には他にも数人、見慣れない顔ぶれがいた。おそらく雲野悠のK市での友人たちだろう。

御影星奈は数秒間、わずかに戸惑いを見せたが、すぐに唇の端を上げて目を細めた。「悠ちゃん、気を遣わせちゃったわね」

彼女は瀬央千弥と結婚して以来、以前の友人たちとはほとんど連絡を取っていなかった。

雲野悠もその一人だ。

「前から気は遣ってたっつーの! 御影さんが自分で色恋にうつつを抜かして出てこなかっただけだろ。円香は今、道が混んでて、あと十数分はかかるってさ」

御影星奈は皆に促され、中央の席に座った。

雲野悠が連れてきた友人たちは皆、彼女と会うのが初めてで、あらかじめ用意していたプレゼントを次々と彼女の前に差し出した。

「御影さん、あんたが何好きかわかんなくてさ、適当にプレゼント買ってきたんだけど、気に入ってくれると嬉しい」

そう言った人物は、少し照れくさそうに頭を掻いた。

御影星奈がちらりと見ると、包装箱には国内最大手の高級ブランドのロゴが印刷されている。

ずいぶんと「適当」なものだ。

御影星奈は江ノ島美波の無自覚なセレブアピールを経験した後では、すでに心の平穏を保てるようになっていた。

最後のひとりがプレゼントを渡し終えたその時、個室のドアが何の前触れもなく開けられた。

「円……」

雲野悠は一文字叫んだだけで、すぐさま口をつぐんだ。

彼の表情は瞬時に険しくなったが、御影星奈がその場にいる手前、ぐっと堪えざるを得なかった。

声がこわばる。「御影さん、瀬央千弥が来た」

その名前を聞いた瞬間、女は気だるげに目を上げ、優雅で物憂げな態度を見せた。

彼女の両隣には雲野悠の同性の友人が座っており、それが瀬央千弥の目つきをさらに冷たくさせた。

彼は氷のような声で三文字を吐き出した。「御影星奈」

「瀬央さん、何かご用でしょうか?」

御影星奈の態度は極めて素っ気なく、雲野悠は驚いて彼女を振り返った。状況が飲み込めない。

これは喧嘩でもしたのだろうか?

だが、考えてみればそれもそうか。これまでの誕生日は、御影星奈はいつも口実をつけて出てこなかった。

今年、誘いに応じたこと自体が、実に意外だったのだ。

「来い」

瀬央千弥が冷たく命じる。

御影星奈はふと笑った。桃花眼は艶やかだが、その瞳の奥は氷のように冷たい。

「瀬央さん、私たちがもう離婚したこと、お忘れになったのかしら」

女のその一言に、雲野悠は驚きのあまり目を丸くした。

彼は会話に割り込む。「御影さん、あんた、こいつと離婚したのか? いつの間に? なんで俺たちに連絡くれなかったんだよ! 盛大に祝ってやったのに!」

最高だ! とっくの昔に御影星奈に瀬央千弥と離婚するよう勧めたかったが、御影星奈の想いを慮ってずっと言えずにいたのだ。

瀬央千弥のどこが御影星奈に釣り合うというのか? まさに豚に真珠、宝の持ち腐れだ!

雲野悠の言葉に、瀬央千弥の顔色が一層暗くなる。

彼の視線が雲野悠に注がれると、雲野悠も負けじと見つめ返し、さらに火に油を注ぐことを忘れなかった。

「瀬央社長、出来た元カレってのは死んだも同然だって言うぜ。ってことは、瀬央社長は今、ゾンビか何か? 今日は御影さんの誕生日なんだ。あんたとその連れ、ここで邪魔しないでくれるか?」

瀬央千弥は一瞬虚を突かれ、怒る間もなく雲野悠の言葉の中のキーワードを捉えた。

御影星奈の誕生日?

青年の戸惑った視線が、御影星奈に向けられた。

「今日、君の誕生日なのか?」

彼が黙っていればまだしも、その一言で御影星奈は頭がガンガンするのを感じた。

幸い、心はすでに傷つきすぎて麻痺していた。でなければ、この一言だけで百パーセント、痛みで涙腺が崩壊していただろう。

「瀬央千弥、私が笑いものみたいだと、そう嘲笑っていると解釈していいかしら?」

御影星奈は冷笑した。

「私の誕生日がいつだと思っていたの?」

瀬央千弥は、今の自分の心情をどう表現すればいいのか、もはや分からなくなっていた。

彼が黙り込むと、綾小路澈が待ってましたとばかりに口を開いた。

彼は悪意に満ちた目で御影星奈を睨みつけ、口を開けば棘のある言葉を放つ。

「お前は元から笑いものだろうが! 離婚してすぐに男漁りかよ、御影星奈、どんだけ寂しいんだ? 道理で瀬央様がお前に見向きもしないわけだ。お前なんて御影家の血が流れてる以外、伽耶ちゃんのどこに勝てるってんだ? お前は……」

綾小路澈が気持ちよく罵倒していると、次の瞬間、拳が飛んできた。

雲野悠は両目を充血させ、怒りの頂点に達していた。綾小路澈は不意を突かれて殴られ、地面に倒れ込む。

「ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ! クソみてえな口ばっか叩きやがって、俺様がてめえの親に代わって教育してやるよ!」

綾小路澈は頭が真っ白になった。

雲野悠が再び拳を振り上げようとするのを見て、別の男が慌てて前に立ちはだかり、瀬央千弥に呼びかけるのも忘れなかった。

「瀬央様!」

瀬央千弥は我に返り、眉をひそめて言った。「御影星奈、もういいだろう!」

女は雲野悠を自分の背後に引き寄せ、瀬央千弥と向き合って立った。相手より頭半分ほど背が低いにもかかわらず、その気迫は負けていない。

彼女は嘲るように唇を歪め、瞳の奥に冷たい光を宿した。

「私がもういい? 先に喧嘩を売ってきたのは、あなたが連れてきた人間じゃないの? 彼が私を罵り、私の友人が私を庇う。何か問題でも?」

「瀬央千弥、悠ちゃんが私より先に手を出してくれたことを幸運に思うことね。もし私だったら、拳一発では済まなかったわ」

男は、今の御影星奈こそが彼女の素顔なのだと感じた。

結婚後の彼女が装っていた従順さや、物分かりの良さを思い出し、男の瞳は深く沈み、唇の端に嘲りの弧が浮かんだ。

彼女も随分と骨を折ってくれたものだ。

二人はしばらく対峙していたが、やがて男は喉を鳴らし、なおも騒ぎを起こそうとする綾小路澈を引き留めた。

そして尋ねる。「御影星奈、午前中……どうして復興高架橋で事故が起きると分かったんだ?」

それは彼が一日中、頭を悩ませていた問題だった。

御影星奈と市役所で別れた後、会社へ向かうために復興高架を通るはずだった。

まさに橋に差し掛かろうという時、ふと御影星奈の言葉が頭をよぎり、魔が差したように運転手に迂回を命じた。

それから間もなく、三角高架道路で交通事故があったという報道を目にしたのだ。

瀬央千弥はこれが偶然だとは思えなかった。

「分かったから分かったのよ」

御影星奈はふと、視線を瀬央千弥の後ろで悔しげな顔をしている綾小路澈に移した。

悪辣に唇の端を吊り上げ、その声はまるで地獄から命を奪いに来た悪鬼のようだった。「それに、あなたがもうすぐ死ぬことも知っているわ」

綾小路澈の周りに漂う死の気配はますます濃くなり、彼にずっと憑いていた悪霊の気配もまた、凶暴さを増している。

それに加え、御影星奈が悪霊に力を貸したことで、本来ならあと一ヶ月は生きられたはずの綾小路澈の命は、今や数時間も残されていなかった。

彼が犯した悪事を法律では裁けない。ならば、相手の制裁を受けさせるしかない。

綾小路澈の死に、同情の余地はない。

御影星奈の言葉に、その場にいた者たちはぞっとするような寒気を感じ、綾小路澈に至っては怒りのあまり血を吐きそうになった。

御影星奈というクズが、自分に死ねと呪いをかけた!

個室の雰囲気は氷点下にまで落ち込み、瀬央千弥は御影星奈を深く見つめた後、一本の電話を受けて慌ただしく去っていった。

目障りな者たちがようやく去った。

雲野悠はまだ怒りが収まらない。「御影さん、このままあいつらを行かせちまうのかよ?」

彼がさらに憤慨しているのは、瀬央千弥があのクズが御影星奈を侮辱するのをただ黙って見ていたことだ。

御影星奈は彼の肩を叩いた。「早く行かせないと、どうやって綾小路澈を早く死なせられるの? 彼は今夜、越せないわ。怒りで体を壊したら自分の損よ」

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