第2章
雑誌を置き、メイクルームに戻ろうとした。
なのに、足が動かなかった。
あの言葉が、呪いのように頭の中で何度も繰り返される。理性的になれ、目を覚ませと自分に言い聞かせた。でも……
『でも、もし本当に、あれが私のことだったら?』
馬鹿げた考えを振り払おうと、首を振った。忘れようとすればするほど、心の奥にしまい込んでいた記憶が、鮮明に蘇ってくる。
高校の日の光、カメラを調整する悟の真剣な横顔、そして彼が口にしたあの言葉……
ドアの枠に身を寄せ、記憶に引きずられるまま、あの甘くて苦い過去へと意識を沈ませていった。
九歳になった夏、私は、悟の家の真下のアパートに引っ越してきた。
あの頃、私の顔はまだガーゼに覆われていて、傷跡がようやく癒え始めたばかりだった。鏡を見るたびに泣きたくなった。他の少女たちがお洒落に目覚め始める中、自分の姿をちらりと見ることさえ耐えられなかった。
帽子を目深にかぶり、うつむいて歩く。それが私の日常だった。
「見て、傷跡のお化けが来た!」
「うわ、気持ち悪い。こっち来ないでよ!」
「なんで死なないの? 見てるだけで吐き気がする!」
そんな言葉がナイフのように私を切り裂いた。昼食はトイレの個室に隠れて食べた。教室では、私の席の周りだけぽっかりと空間が空いていた。まるで私が伝染病でも持っているかのように。
私は、きっと一生ひとりぼっちなんだと思っていた。
そんな時、悟が現れた。
一年生の最初の日。いつものように教室の隅の一番後ろの席に無意識に座ると、不意に隣に誰かが腰を下ろした。
びくっと肩が跳ねる。顔を上げると、そこには深い青色の瞳があった。
「やあ、俺は悟」彼はこともなげに言った。まるで傷跡のお化けの隣に座ることが、世界で一番当たり前のことであるかのように。
すぐに周りからひそひそ話が聞こえてきた。
「あいつ、頭おかしいんじゃない? なんであんな席に」
「まだ顔をちゃんと見てないんだよ……」
「傷跡を見たら逃げ出すに決まってる」
私は俯き、彼がやがて嫌悪の表情を浮かべて立ち去るその瞬間に備えた。
でも、彼は去らなかった。
ただ教科書を取り出し、時折こちらを向いて微笑みかける。まるであのひそひそ話など、まったく存在しないかのように。
生まれて初めて、自分が透明人間じゃないんだと感じた瞬間だった。
それから毎日、彼は階段の踊り場で私を待っていてくれた。
「一緒に学校、行かないか?」
いつもそう、天気の話でもするかのような、さりげない口調で尋ねてくるのだ。
私はどもりながら頷いた。胸が張り裂けそうなくらい心臓が高鳴っていた。彼と一緒に歩く十分間が、私にとって一日の中で一番幸せな時間だった。
「あの……噂に、ならないかな?」ある日、私は思い切って尋ねた。
「何が?」彼は問い返した。その青い瞳に、読めない感情を浮かべて。
「傷跡のお化けと一緒にいるから……」
彼は立ち止まり、真剣な眼差しで私を見つめた。「絵里、聞いて、他人の言葉で、自分を決めつけるな」
彼が初めて私の名前を呼んでくれた。「傷跡のお化け」じゃなく、「絵里」と。
その瞬間、私は完全に恋に落ちた。
それから、すべてが変わった。学校へ行くのが楽しみになった。彼と一緒に過ごせる一分一秒が待ち遠しかった。
でも、それ以上を望むなんておこがましかった。だって、私みたいな少女にとって、彼の優しさは、それだけで身に余るものだったから。
あの美術の授業までは。自分がただの同情の対象じゃないのかもしれないと、気づくまでは。
他の生徒たちが静物画を描いている中、悟はカメラを取り出した。大事に使い込まれた、古いフィルムカメラだった。
「写真、撮ってもいい?」不意に彼がそう尋ねてきた。
私は恐怖に駆られて首を横に振った。「だめ! 私……私、醜いから……」
「そう?」
「だって、傷跡が……私、化け物だから……」
彼はカメラを下ろした。そのあまりに優しい眼差しに、泣きたくなってしまう。「絵里、カメラは人間が気づかない美しさを見つけてくれよ」
彼が再びカメラを構え、そっと呟くまで、私にはその意味が分からなかった。「この角度からだと、傷は、まるで天使の羽の影みたいに見える」
天使の羽の影。
その瞬間、心臓が砕け散るかと思った。痛みからではなく、今まで経験したことのないほどの美しさによって。
私って、そんなに醜くないのかも――初めてそう思えた。その美しい感情は、卒業までずっと続いた。
卒業式の前夜、学校の屋上、夕暮れ時。
「俺、写真家になりたいんだ」不意に彼が言った。「新都に行って、勉強する」
胸が締め付けられた。新都、夢のように遠い場所。
彼は私の方を向いた。「もし俺が新都で写真を学ぶなら、君も来てみたいと思うか?」
心臓が爆発しそうなほど高鳴った。これは……これは、誘われているの?
「私……私なんかが、そんな場所に行っていいのか分からない」
「絵里は、誰よりも大きな世界にふさわしい」彼の声は柔らかかったが、その一言一言が私の心に突き刺さった。
これは何かの約束なんだと舞い上がった。「もし……もし、あなたがいいって言うなら……」
彼は微笑んだ。その笑顔は、泣きたくなるほど綺麗だった。
その瞬間、私の人生が変わるのだと思った。
だが、現実は残酷な一撃を私に食らわせた。
翌朝、まだ悟との新都での未来を夢想していた。
母が突然部屋に飛び込んできた。「絵里! 荷物をまとめなさい、今日引っ越すわよ!」
「え?」
「引っ越しよ! 仕事ももう辞めてきたから!」
部屋はあっという間に段ボール箱で埋め尽くされ、私の世界は制御不能に陥った。
「どうしてそんなに急なの? 私、まださよならも言えてないのに……」
「ここから離れて、心機一転するのよ」母の口調は有無を言わせなかった。「この場所の何もかもが、辛い記憶を思い出させるから」
私はさよならの手紙を書いたが、手がひどく震えて、まともに文字も書けなかった。車が走り出すと、私は後部座席で、手の中で震える手紙を見つめていた。
悟の住む建物の前を通り過ぎた時、窓辺に彼が立っているのが見えた。
私を待っていたのだろうか?
涙が溢れ、私はその手紙を粉々に引き裂いた。
紙片が車窓から舞い散る。それは、私の砕け散った夢のようだった。
「絵里! 一体どこにいるんだ? 俳優たちがメイク直しを待ってるんだぞ!」
監督の怒声で、私は現実に引き戻された。自分がまだ休憩室の戸口に立ち尽くし、目を潤ませていたことに気づく。
七年。
七年間、あれはただの若さゆえの美しい勘違いだったと自分に言い聞かせてきた。彼は可哀想な少女を慰めてくれただけで、それ以上でもそれ以下でもないと。
でも、さっき雑誌で見た、あの言葉は……
「いいえ、ありえない」私は首を振り、乱暴に涙を拭った。「今の彼の周りには、完璧な美人たちがいる。傷だらけの少女のことなんて、覚えているはずがない」
深呼吸をし、無理やり自分を現実に引き戻す。ここは古びた撮影セットで、私は数万円のギャラを気にするメイクアップアーティスト。彼は渚ヶ丘の豪華なスタジオで、国際的なスーパーモデルや高級ブランドと仕事をしている。
私たちの間の距離は、七年分の思慕では埋められない。
「忘れよう」私はそう呟き、メイクルームへと踵を返した。「仕事に戻らなきゃ」
現実は、とっくに答えを出してくれている。もう自分を騙すのはやめよう。








