第140章 彼はただ彼女に生きてほしい

「橘カオリ」

その名を聞いた瞬間、秘書の瞼がぴくりと震えた。

橘カオリ――葉山立夏の無二の親友であり、唯一の友人でもある人物だ。

「彼女の資金の流れ、通信記録、足取りのすべてを洗え。特にここ一ヶ月、彼女が立ち寄った可能性のある場所は一つ残らずだ」

西園寺京夜の声は凪いだ水面のように平坦だったが、聞く者の背筋を凍らせる冷たさを孕んでいた。

「本人に悟られるな。私が欲しいのは結果だけだ」

秘書は瞬時に主の意図を察したが、余計な詮索はせず、ただ深く恭順の意を示した。

「承知いたしました」

「行け」

西園寺京夜は軽く手を振り、再び地図へと視線を戻した。

秘書は音もなく書斎を退出し...

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