第146章 ゲームは始まったばかり

「社長?」

 秘書は恐る恐る尋ねた。

「その……ここで一日中、見ているだけですか?」

「ああ」

「……」

 秘書は絶句した。ボスは気が狂ったのではない。馬鹿になってしまったのだ。

 それからの日々、プラハのビジネス街ではある奇妙な噂が流れ始めた。

 西園寺ホールディングスの西園寺京夜――あの神出鬼没と噂されるビジネス界の帝王が、ここプラハで「妻待ちの石像」と化しているというのだ。

 毎朝八時半、彼のマイバッハは決まってエーテル社の向かいに現れる。

 そして午後六時、社員たちが退社するのを見届けてから去っていく。

 雨の日も風の日も、一日たりとも欠かさずに。

 彼は何もし...

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