第270章 私の西園寺奥様

彼女は無意識に彼の首に腕を回した。背中のシャツにぴったりと張り付いた手のひらから、そこにある筋肉が硬く引き締まっているのが伝わってくる。

「西園寺の奥様を抱き上げるくらいの力は、まだ残っているよ」

彼はうつむき、鼻先を彼女のそれにすり寄せた。その声には、思い通りになったとでも言いたげな笑みが微かに混じっている。

彼に抱かれたまま、一歩、また一歩と、芳醇な香りを放つ薔薇の絨毯を踏みしめていく。その足取りはひどく安定していた。

背後で揺らめくキャンドルの光が長い影を落とし、二人のシルエットを一つに重ね合わせる。

葉山立夏は彼の胸元に寄りかかり、その重厚で力強い鼓動を聞きながら、腕から伝...

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