第280章 傷跡は、鎧でもある

男は何も語らず、荒れ果てた蘭の温室へと歩み寄り、床に散乱したガラスの破片を片付け始めた。

雨に濡れたシャツが広い背中に張り付き、流麗な筋肉のしなやかなラインを浮き彫りにしている。

ビジネスの世界で辣腕を振るうその男が、今は泥水の中にしゃがみ込み、億単位の契約書にサインをしてきたその手で、鋭利なガラスの破片を一つ一つ、まるで希代の宝物でも扱うかのように慎重に拾い集めていた。

葉山立夏は立ち尽くしたまま、彼の背中を見つめていた。

雨足は弱まってきたというのに、彼女の体を包む寒気は増すばかりだった。

あまりにも現実離れしたその光景に、彼女は自分が現実から切り離されてしまったかのような錯覚...

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