チャプター 6
オードリー視点
「ねえ」私は少し身を乗り出し、声を和らげて言った。「あなたの力になりたいんだけど、どうすればいいか分からなくて。警察署に連れていってもいいかしら? そこにいるお巡りさんなら、おうちに帰る手伝いをしてくれると思うの。それでいい?」
男の子はわずかに目を見開き、じっくり考えた後で、小さく、しかしはっきりと頷いた。
どっと安堵がこみ上げてきた。少なくとも、彼が同意してくれた次の一歩、進むべき方向が定まったのだ。
会計を済ませ、私はそっと男の子の手を取って店の外へ出た。
スマートフォンで最寄りの警察署を調べていると、黒いスーツの男四人があまりに突然現れたので、私は息を呑み、とっさに男の子をぐっと引き寄せた。
彼らの動きは軍隊のように正確で、あっという間に私たちは包囲されてしまった。
一人が耳に指を当て、事務的で簡潔な口調で言った。
「対象を確保。若様を発見」
心臓が肋骨を叩くように、激しく脈打った。
「待ってください、誤解です!」私は防御的に両手を上げながら言った。「レストランでこの子が一人でいるのを見つけて、警察に連れて行こうとしていただけなんです。私は――誘拐犯か何かじゃないんです!」
彼らには私の言葉が聞こえていないようだった。
二人が私の両脇を固め、もう一人が腕を掴んできた。
「ご同行願います」男はそう言い、路肩に停められた黒いSUVへと私を誘導し始めた。腕を掴む力が痛いほど強い。
「離して!」パニックが喉元までせり上がってくるのを感じながら、私は叫んだ。「この子を助けていただけなのに!」
突然、男の子が前に飛び出し、その小さな体で私と警護の男たちの間に立ちはだかった。
それまで無表情だった彼の顔には、はっきりとした決意の色が浮かんでいた。私をかばうように、両腕を広げて。
警護チームの動きが止まった。子供の予期せぬ行動に、明らかに面食らっている。
「若様」一人が慎重に切り出した。「どうか、そこをお退きください」
だが男の子は動かない。それどころか、年齢に似つかわしくないほど厳しい眼差しで彼らを射抜き、断固として首を横に振った。
警護の男たちは顔を見合わせた。明らかに途方に暮れている。
短い緊張した睨み合いの後、リーダー格らしき男がため息をつき、待機しているSUVの方を指し示した。
「承知いたしました。ではお二人とも、どうぞ」
私はためらったが、男の子が私の手を取ると、優しく車の方へぐいっと引いた。
警護員に囲まれ、他に選択肢もない状況で、私はしぶしぶ後についていった。
少なくともこうすれば、彼のご両親に直接事情を説明して、誤解を解くことができるだろう。
車が進むにつれ、街の明かりは徐々に姿を消し、道は街路樹の並ぶ通りへと変わって、ぽつりぽつりと建つ邸宅の間隔が広がっていった。
やがて車は、私たちが近づくと自動的に開く巨大な錬鉄製の門を抜けた。その先には、完璧に手入れされた庭園に縁どられた、曲がりくねった私道が続いていた。
その豪邸が視界に飛び込んできた時、私は思わず息を呑んだ。
高価な服や完璧なマナーから、この男の子が裕福な家庭の子だとは薄々感づいていた。けれど、これは……次元が違った。
SUVが正面玄関に停まると、そこには非の打ち所のない服装をした品位のある年配の男性が、心配そうに体を硬くして立っていた。
車から降りてきた男の子の姿を目にした瞬間、男性の顔には目に見えて安堵の表情が広がった。
彼はさっと男の子に検分するような視線を送り、怪我がないことを確認した。
「ノア様、どちらにいらっしゃいましたか」彼は吐息と共につぶやいた。
ノア。それが彼の名前だったんだ。
言葉で答える代わりに、ノアは男性に歩み寄り、その小さな手で相手の手を優しく握ると、安心させるようにぽんぽんと叩いた。
ノアのその仕草に男性の表情は一瞬和らいだが、彼が顔を上げて私に目を向けた途端、その眼差しは猜疑心に満ちた、鋭く値踏みするようなものへと変わった。
警護の一人が素早く一歩前に出た。
「エドワード様、坊ちゃまがこちらの女性とレストランから出てこられるのを発見いたしました」男は事務的に報告した。「我々が声をかけたとき、彼女は坊ちゃまの手を握り、店から離れようとしているところでした」
エドワードは私を値踏みするように見つめ続け、その目を危険なほどに細めた。
「お前は何者だ?」彼は詰問した。「誰に送り込まれた? ソーントン家の子供を誘拐しようなどと、よくもそんな真似ができたものだな」
ソーントン? その名前は、まるで殴られたかのような衝撃だった。
私の頭の中を、ここ数年で目にした経済誌の表紙、新聞の見出し、チャリティーガラの告知などが駆け巡る。
ソーントン家はただの金持ちではない。その一族は何世代にもわたってこの国の金融界を形成してきたのだ。
そして現在の当主、キャスパー・ソーントン――通称「キングC」――は、その冷酷なまでの効率性と、情け容赦ないビジネス戦術で有名だった。
たった今、その彼の四歳になる息子と気軽に夕食を共にしていたという事実に、頭がくらくらした。
ニューヨークの誰もが、キャスパーには幼い息子がおり、その母親の正体が上流社会最大の謎であり続けていることを知っていた。
そして、もう一つ、不文律があることも。ソーントン家の跡継ぎに手を出す者は誰であれ、キャスパーの容赦ない怒りに直面することになる、と。
「手を出す者は死ぬ」――それは単なる噂ではなかった。
「完全に誤解です」私は、声が震えないように必死に努めながら言った。「たまたま彼に会っただけなんです。ノアを警察署に連れて行こうとしていたところを、この人たちに見つかって……」
エドワードの表情は、冷たく懐疑的なままだった。「驚くべき偶然の一致ですな。それで、彼が誰なのか全く知らなかったと、私に信じろと?」
「本当なんです」私は、自分の声に滲む必死さを聞きながらも強く言った。「ええと、これがどう見えるかは理解していますが、でも――」
エドワードは手を挙げて、私の言葉を遮った。
「もういい。真相はこちらで究明する」
彼は警備チームの方を向いた。「彼女を東棟の書斎へ連れて行き、そこにいろと伝えろ。ソーントン様がお戻りになられたら、ご自身で尋問されるだろう」
二人の警備員が、即座に私の方へ向かってきた。
自分の置かれた状況の現実が押し寄せ、心臓が肋骨を叩きつけるように激しく鼓動した。
突然、ノアがエドワードの手を振りほどき、迫りくる警備員たちを見つめながら、私と彼らの間に割って入った。
その小さな体は私の進路を塞ぐように真正面に立ち、両腕を広げた姿は、紛れもなく私を守ろうとする構えだった。
警備員たちはたじろぎ、規律正しい動きが不確かなものへと変わる。
そして、再び予期せぬことが起こった。
「この人……たすけて、くれた」ノアの声は小さかったが、はっきりとしていた。
効果は絶大だった。
全員が凍りついた。エドワードは、隠しきれない衝撃を浮かべた顔でノアを見つめている。
「ノア?」エドワードの声は、ほとんど囁きに近かった。「……話したのか」
ノアはこくりと固く頷き、私を指さした。「たすけてくれた」
たった二つの簡単な言葉。だが、周りの反応からすれば、それはまるで長々とした演説にでも匹敵するほどの効果があったようだ。
エドワードと警備チームは呆然と顔を見合わせ、今起きたことを処理しようと明らかに苦闘していた。
第七章
キャスパー視点:
ニューヨークへの降下は、苦痛なほどにゆっくりと感じられた。
窓の外を眺めている間、一秒一秒が引き伸ばされているかのようだ。
機体が着陸した瞬間、すぐに携帯電話が鳴った。
「ソーントン様、エドワードです」
「ノアは?」それだけを口にするのが精一杯だった。
「坊ちゃまは発見されました。ご無事です」
全身から力が抜け、筋肉の緊張が解けていくのがわかった。安堵感に体が沈む。
だが、その安堵を味わう間もなく、エドワードの声が戻ってきた。今度は、抑えきれない興奮に震えている。
「旦那様、もう一つ……」
彼の普段の落ち着いた口調は、紛れもない感情に取って代わられていた。
「信じられないほど……驚くべきことが起こりました。ノア様が――」エドワードは、まるで自分でもまだ信じられないかのように、一度言葉を切った。「ノア様が、お話になりました。実際に、言葉を」
俺は凍りつき、息が喉に詰まった。
「……何と言った?」声はかろうじて聞き取れる程度だった。
聞き間違えたに違いないと、アームレストを強く握りしめる。
事故の後、選択性緘黙症と診断されて以来、ノアは一言も話していなかったのだ。
あらゆる手を尽くした。最高の専門医、セラピスト、実験的なプログラム――だが、どれも成果はなかった。
ノアはせいぜい、小さなスケッチブックを通して自分の要求や考えを表現するだけで、それ以外の意思疎通は一切拒んでいた。
彼の沈黙は完璧で、誰も打ち破ることのできない要塞だった。
「エドワード」と私は言った。心臓は高鳴っていたが、声は低く、落ち着きを保った。「本当に間違いないのか?」
「はい、旦那様。ノア様がお話になりました。二言、『彼女が助けてくれた』と」エドワードは興奮した様子で答えた。
「彼女?」安堵は冷たい明晰さに取って代わられた。「『彼女』とは誰だ?」
「警備員がノア様を発見した際、一人の女性が一緒にいたとのことです」とエドワードは説明した。
「どうやら、彼女がノア様を助けていたようです。チームの報告によれば、レストランから彼女と一緒に出てくるところを発見したと。警備員が二人を引き離そうとしたところ、ノア様が彼女を必死で庇おうとなさったそうです」
「その女はまだいるのか?」私は頭の中で様々な影響や可能性を巡らせながら尋ねた。
「はい、旦那様。今、ノア様と共に談話室におります」
エドワードの声には、どこか驚嘆の色が混じっていた。「ノア様は……かなり彼女に懐いているご様子で。こちらに到着されてから、片時もそばを離れようとなさいません」
私は一瞬黙り込み、事態を整理しようと努めた。
息子が言葉を発しただけでなく、見知らぬ人間に自ら関わろうとしている。
その衝撃が、この女性に対する燃えるような好奇心と共に、私の中を駆け巡った。
「エドワード、その女を絶対に帰すな。今からそちらへ向かう。その女に会わなければ」
「承知いたしました、旦那様」
私の車がロングアイランドにあるソーントン家の屋敷の門をくぐった頃には、敷地はすでに闇に包まれていた。
エドワードは満足そうな表情を浮かべ、玄関ホールで私を待っていた。
「旦那様、お帰りなさいませ」
エドワードはいつもの手際の良さで私のコートを受け取った。
「ノアはどこだ?」私はすでに階段へ向かいながら尋ねた。
「アートルームにおられます、旦那様」エドワードの声には、紛れもない安堵が滲んでいた。「今はすっかり落ち着いていらっしゃるようです」
私は階段の途中で足を止め、振り返った。「それで、あの女は?どこにいる?」
エドワードの表情が、わずかな失望へと変わった。「お帰りになりました、旦那様。急用ができたと」
彼は続けた。「旦那様がお着きになるまで留まっていただくよう説得を試みたのですが、こちらが引き止めようとしたり、少しでも強いる素振りを見せたりするたびに、ノア様が興奮なさってしまいまして……」
「せめて連絡先くらいは残していったんだろうな?」私は失望を隠し、平静を装いながら尋ねた。
「はい、旦那様」エドワードはポケットに手を入れると、小さく折り畳まれた紙片を取り出した。「これを」
私はそのメモを受け取り、広げた。
流れるような、優雅な筆跡で名前――オードリー・レイン――と、それに続く電話番号とメールアドレスが書かれていた。
その筆跡に、なぜか奇妙な見覚えがあるような気がした。文字の曲線やループを見つめていると、うまく説明できない不思議な既視感に襲われた。
「オードリー・レイン」私はそう呟き、メモをポケットにしまった。
「レイン様のことですが、旦那様」エドワードは少し声を弾ませて付け加えた。「私が、ノア様がルミナス・ギャラリーからいなくなったとお伝えしたところ、大変驚かれたご様子でした」
「ほう?」と私は先を促した。
「実は、明日からそちらで勤務されることになっている、と」
エドワードの表情が和らいだ。「私たちのこの会話を耳にされたノア様は、どこか嬉しそうなご様子でした。ですので、もしお会いになりたいのでしたら、明日にもお会いになれるかと」
私は眉を上げたが、何も言わなかった。
「では、今日何があったのか、正確に教えてくれ。なぜノアは突然いなくなったんだ?」
エドワードの表情は即座に真剣なものに変わり、明らかに次の言葉を慎重に選んでいた。
「旦那様、今朝、ブラウン嬢との間に……少々問題がございました」
「ブラウン嬢? ヴァネッサか?」私は眉をひそめた。
エドワードは姿勢を正し、さらに深刻な表情になった。
「はい、旦那様。ノア様がお姿を消された後、状況を徹底的に調査いたしました」彼はわずかにためらった。「ブラウン嬢は、ノア様が入社された後にルミナス・ギャラリーに加わっております」
俺の表情が険しくなった。「説明しろ」
「数名のスタッフによりますと、ブラウンさんは自らノア様の指導を担当したいと申し出たとのことです」
エドワードの声は抑えられていたが、その非難の色は明らかだった。
「ブラウン家とソーントン家の長年にわたる繋がりを考えますと、美術館の館長は、ブラウン家の者の要求を断れば後難を恐れたようです。それで、ブラウンさんが自動的にノア様の専属講師となった次第でございます」
「だがノアは、彼女に対して一貫して抵抗を示している」
冷たい怒りが胸の内にこみ上げてくるのを感じた。「それで、今回のノアの失踪と彼女に何の関係がある?」
エドワードの声がわずかに低くなった。
「防犯カメラの映像によれば、ノア様がブラウンさんの厳しい指示に従うのを拒否された後、彼女はノア様に顔をぐっと近づけました」
エドワードの普段は冷静なその態度が揺らいだ。「音声には、ノア様に対し、自分は『もうすぐあなたの新しいお母さんになる』こと、そして『いい子にして、言われた通りにしないなら、お父様にもうお前なんていらないって思わせてやるから』と告げる彼女の声が記録されていました」
これが、ノアが逃げ出した理由か?
全身が硬直した。冷たく、危険な怒りが俺を席巻した。
「エドワード」俺の声は氷のように冷たくなった。「ブラウン家との一切の関係を断て。取引も、社交界の招待も、何もかもだ。ソーントン家に手を出すとどうなるか、徹底的に思い知らせてやれ」
「承知いたしました、旦那様」エドワードは表情ひとつ変えなかった。
彼は、誰かが一線を越えた時に俺がどう動くかを熟知するほど、長くこの家に仕えている。
「ノアの様子を見てくる」俺はそう言うと、すでに階段へと向かっていた。
ノアのアートルームに着くと、俺は戸口で足を止めた。
彼はドローイングテーブルに座り、一枚の紙の上に身をかがめ、その表面で手を素早く動かしていた。
彼を驚かせないよう、わざと少し足音を立てて部屋に入った。
「ノア」と、俺は優しく声をかけた。
彼は顔を上げた。その瞳が俺と一瞬だけ合ったが、すぐにまた自分の絵へと戻ってしまった。
俺はもっと近づき、彼が座る椅子の隣にしゃがみ込んだ。
「すまなかった」俺は穏やかな声を保った。「最近、留守にしすぎていたな。会議ばかりで、オフィスで夜遅くまで……」
ノアは絵を描く手を止め、青い鉛筆を紙の上で浮かせた。俺の方を見上げはしなかったが、俺の言葉を噛みしめているのがわかった。
しばらくして、彼はただ首を横に振った。
その小さな仕草は、どんな癇癪よりも俺の胸に突き刺さった。
「ノア、大事なことを聞いてほしい」俺は低く、だがはっきりとした声で言った。「誰が何と言おうと、絶対に信じるな。俺はお前を、この世界の何よりも愛している」
彼の指が青い鉛筆を強く握りしめ、その小さな手が微かに震えているのが見えた。
「もうブラウンさんには会わなくていい」俺は声を和らげながら続けた。「すぐに美術館の先生を別の人に代える手配をしている」
ノアの鉛筆が途中で止まった。彼の肩からふっと力が抜けたのがわかった。
「エドワードから聞いたんだが、今日誰かに会ったそうだな。レーンさん? オードリーとか」俺は彼の反応を注意深く観察しながらも、何気ない口調を装った。
「彼女のこと、気に入ったみたいじゃないか」
オードリーの名が出た途端、ノアの様子がかすかに変わった。顔がわずかに上がり、肯定するようにこくんと頷くのが見えた。
「新しい先生は、彼女がいいか?」と俺は尋ねた。
ノアの瞳がぱっと輝き、彼は頷いた。
複雑な感情が俺の中に渦巻いた。このオードリー・レーンという女性は、ふらりと現れてたった一日でノアの信頼と声を取り戻したというのに、俺はこんなにも長い間、空振りばかりだったというのに。
「彼女の何がそんなに特別なんだ?」俺は声に含まれた嫉妬を隠そうとしながら、そっと尋ねた。「どうして彼女となら、話そうと思えるんだ?」
