第155章

それが強く記憶に残っているのは、デザインがあまりにも唯一無二だったからだ。しかも、その背景にある物語が胸を打つ。

結婚六十周年の記念日に、ある宝飾界の大富豪が妻へ贈った指輪。

たしか――赤井弦子の記憶が正しければ――そのお爺さんは莫大な金を投じ、シャネルの創業者に直々にデザインを依頼したという。想いの重さも、コレクションとしての価値も、タイタニックの『碧洋の心』に匹敵するほど。

「この指輪は、曾祖父さんが曾祖母さんに贈ったものなんです。代々受け継がれて、僕のところまで来ました」

「狩野奥様。今日からは、あなたに預けます」

「失礼ですが……曾祖父さんというのは……」

その名前を聞い...

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