第39章

米崎梨央は小さく鼻を鳴らした。

「私の許可もなく、他人の前で勝手に『婚約者』ってことにしたんですね、新村さん。それ、まずくないですか?」

「まずいのか?」

新村慎之介が一歩踏み込み、距離が詰まる。

ふわりと、雪松を思わせる冷たい香り。梨央は反射的に後ろへ退き、机の縁に腰が当たった。

次の瞬間、慎之介の手が彼女の背後の天板を押さえる。逃げ道を塞ぐみたいに、彼女を腕の中へ閉じ込めた。

「さっき、鈴木明哲が『お前が新村の婚約者で、全部お前の好きにしていい』って聞いたときの顔。痛快じゃなかったか?」

「その場で否定もしないでさ。今になって急に関係を切りたいのか? 使うだけ使って捨てるっ...

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