第86章 私があなたを好きなように、至って普通のこと

鈴木莉緒は彼女を説得しようとはしなかった。こういうことは当事者の問題だ。

彼女は部外者だ。何を説得できるというのか。

当人たちが死ぬほど愛し合っているのなら、それは真実の愛なのだろう。彼女がもし諦めろだの、別れろだのと言えば、かえって二人の仲を引き裂く悪者になってしまうかもしれない。

「どうするの? ここで飲み続ける? それとも帰る?」鈴木莉緒はこれ以上何も言いたくなかった。彼女には説得できないのだ。

紺野真琴は手の中の酒を飲み干し、缶を握り潰した。「帰る」

「送るわ」

「ありがとう」

車中、紺野真琴はずっと目を閉じていた。

鈴木莉緒は前の席に座りながら、時折振り返って彼女の様...

ログインして続きを読む