第1章
カメラのレンズを拭うのは、これで三度目だった。埃は決して完全には落ちないと分かっていながら。鉱山の崩落事故から三日。私は何百枚もの写真を撮った。その一枚一枚が、私の心を打ち砕いた。閉じ込められた鉱夫の半数はいまだ地下にいるというのに、私たち国際救援隊は撤収しなければならなくなった。
テントの外で、ヘリコプターのローター音が空気を切り裂いた。心臓が跳ねる。やっと家に帰れる。
「沙耶、準備はできたか?」堂本がテントの入り口から顔を出し、書類の束を抱えていた。私の夫であり、私たちが所属するNGO救援チームのプロジェクトマネージャーだ。彼の表情はどこかおかしい、私が期待していた「やっとこの地獄から解放される」という安堵の表情ではなかった。
「もうすぐ」私はカメラを耐衝撃ケースにしまい、ジッパーを閉めた。「大使館から、私たちの席は確保できたって連絡は?」
「それなんだが。君に話しておかなければならないことがある」彼は私の向かいにある折り畳み椅子に腰を下ろし、視線を合わせようとしない。「ヘリコプターの座席には限りがある。本国籍の者には、二席しか用意されていない」
私は荷造りの手を止めた。「どういうこと?」
「君と、俺と、村上大使。三人だ」彼は気まずそうに間を置いてから続けた。「当初の計画では、まず俺と大使が先に行き、君は次の便を待つことになっていた。だが、状況が変わった」
心臓が沈む。「どう、変わったの?」
「村上大使が残ることに決めた。彼自身が、今後の救助活動の指揮を執りたいそうだ」
安堵の波が押し寄せてくるのを感じた。「じゃあ、あなたと私の二人だけってこと? よかった、私てっきり――」
「いや」彼は私の言葉を遮った。「梨乃も一緒に行かなければならない」
その言葉を理解するのに、一瞬の間が必要だった。土方梨乃、亡くなった南浜州の鉱夫である夫の子供を身ごもっていると主張する、金髪の心理カウンセラー。彼女は今週ずっと、救助隊員たちのトラウマカウンセリングを行い、非常にプロフェッショナルに振る舞っていた。
待って。
「席は二つ。それってつまり……」私は彼を見つめた。自分の考えていることが信じられなくて。
「梨乃は妊娠六ヶ月だ。夫は今回の崩落事故で亡くなり、彼女は精神的に不安定な状態にある。桜原市に戻って専門的な治療を受けさせないと、お腹の子にも危険が及ぶと医者が言っている」
足元の地面が消え去ったような感覚に陥った。「あなたは彼女と一緒に行って、私をここに置いていくって言うの?」
彼はようやく私を見たが、その目は見知らぬ他人のように冷たかった。「それが最も合理的な采配だ。君よりも、彼女の方が帰国を必要としている」
この男は、妊娠している妻を捨てて、他の女と逃げようとしているのだ。
一年前、彼が私を口説いていた頃を思い出す。桜原大学経済学部を出たばかりで、若く、野心に燃え、自分の専門知識を第三世界の支援に役立てたいと語っていた。彼は私に、その人道的な理想について長文のメールを送り、私のような社会意識を持った人間こそ、彼が求める生涯のパートナーなのだと言った。
『君にはビジョンと情熱、そして世界を変える勇気がある』と、彼はその時言った。『二人でなら、もっとたくさんの有意義な仕事ができるはずだ』
私は真実の愛を見つけたと信じていた。弱者に心を寄せ、正義のために戦うことを厭わない男性。父に頼み込んで、堂本に今のNGOのポストを与えたのも私だった。
その同じ男が今、私の向かいに座り、私がほとんど知りもしない女の方が大事なのだと、事務的な口調で告げている。
「彼女の方が……私より必要ですって?」私の声は震えていた。「私も妊娠しているのよ」
彼は一瞬瞬きをしたが、すぐにあの事務的な表情に戻った。「知っている」
「知っているですって?」私は自分の耳を疑った。「それならどうして……」
「君はまだ三ヶ月だ。彼女ほど進んではいない。それに君は健康だし、ここの環境にも順応できる」彼は私の言葉を遮った。「君なら大丈夫だ。梨乃の方が、君よりも助けを必要としている」
世界がぐらぐらと揺れるような感覚に襲われた。私が妊娠していることを知っていて、それでも私を置き去りにすることを選んだというのか? いつ武装紛争が勃発してもおかしくない、こんな場所に?
「環境に順応ですって?」私の声が震え始めた。「二日前の夜には銃声が聞こえたのよ! 妊娠している女性を、戦争地帯に置いていくつもりなの?」
「護衛には国連平和維持隊がいる」彼は立ち上がった。「それに、救助活動を続けるために悠真が残る。彼はプロだ。君の面倒を見てくれるだろう」
鉄原悠真。私たち国際ボランティアとはほとんど口を利かない、あの南浜州の鉱山救助専門家。自分の中に閉じこもっている、石のような顔をした男。
「正気なの?」私も立ち上がった。「私はあなたの妻よ!」
「妻だからこそ、君なら乗り越えられると分かっている」彼の口調は冷静なままだった。「君はただの女性じゃない、沙耶。君は芦原家の人間だ。高貴な血を引いている。誰よりも強い」
高貴な血。思わず乾いた笑いがこみ上げてきた。一年前、彼が私を口説いていた頃は、私の家柄のことなど一度も口にしなかった。それが今になって、私がすべてに耐えるべき理由になるというのか。
外で足音が近づき、やがて梨乃が入ってきた。彼女の金色の髪は、この過酷な環境でもなぜかふんわりとして見え、薄青い瞳は涙で潤んでいた。絵に描いたような無垢な被害者の表情、明らかにプロの訓練を受けている。
「本当にごめんなさい、沙耶さん」彼女の声はか細く、壊れそうだった。「あなたの席を奪うつもりは本当にないんです。でも、お腹の子のためにも……」彼女は明らかに膨らんだお腹を優しくさすった。
吐き気がした。
つわりではない。嫌悪感からだ。その憐れみを誘う演技と、堂本の「お腹の子のため」というセリフ――完璧にリハーサルされたものだった。
「ええ、もちろん、お腹の子のためですものね」私は歯を食いしばって言った。「なんといっても、亡くなった英雄の遺児ですもの。私のお腹の中にいるものより、ずっと大事でしょう」
梨乃の目が一瞬揺らいだが、すぐにまたあの傷ついたような表情に戻った。「そんなつもりじゃ……」
「もういい」堂本はぞんざいに手を振った。「沙耶、そんな風になるな。これが、あらゆる要素を考慮した上での最善の決定なんだ」
あらゆる要素を考慮した。その言葉、覚えておこう。
ヘリコプターの騒音が近づいてくる。堂本は梨乃の荷物を持ち上げた。「もう行かないと」
私はテントの入り口に向かう二人を、頭が真っ白になったまま見つめていた。この男は本当に、こんな風に私を見捨てるつもりなのだろうか? この危険な場所で、見知らぬ女のために?
「あんた」私は呼びかけた。
彼が振り返った時、その顔に苛立ちが浮かんだのを、私は確かに見た。
「十年後に私が回顧録を書くとき、あんたがどんな男だったか、世界中にきっちり教えてあげるわ」
彼の表情が変わった。「沙耶、感情的になるな。冷静になれば、これが合理的な選択だったと理解できるはずだ」
そして二人は行ってしまった。本当に、行ってしまった。
私はテントの中に立ち尽くし、ヘリコプターの音がどんどん大きくなるのを聞いていた。テントの隙間から、堂本が梨乃を機内に乗り込ませるのを手伝っているのが見えた。まるで彼女が転びでもしないかと恐れるように、とても慎重に。
一年前、彼も同じように私を車に乗せてくれた。それが愛だと思っていた。
ヘリコプターがゆっくりと離陸していく。空の黒い点になるまで、私はそれを見つめていた。その時、突如として、私の背後で巨大な爆発音が轟いた。
