第10章

私は携帯を取り出し、中に何か変わったものがないか念入りにチェックした。しかし林田翔太もこの引き出しが簡単に開けられることを知っていたようで、重要なものは一切入れておらず、小物ばかりだった。

もう一つの棚を開けてみたが、同じようなものだった。

唯一重要そうなものといえば、中に散らばっている数枚の紙幣くらいだ。

ふと、病気になってからというもの、自分は一銭も持っていないことに気づいた。これでは逃げようと思っても、逃げられるはずがない。

だから私は手を伸ばし、分厚い札束の中から一部を抜き取ってポケットに押し込んだ。これで今後、万が一のことがあっても、いくらかの保障にはなるだろう。

あまり...

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