第292章

その言葉を聞いて、私は思わず笑みをこぼし、彼の肩を軽く叩いた。

「だって、あのメモの筆跡、どう見ても蓮のものじゃない。あなたがくれたものだって、気づかないわけないでしょう?」

 言い終えると、西田蓮の視線がじっと私に注がれていることに気づく。

「……どうしたの?」

 何かあったのかしら。

 西田蓮は唇を震わせ、何かを言いかけたようだったけれど――結局、言葉にはならなかった。

 代わりに、彼は衝動的に私を強く抱きしめた。

 男性特有の力強さに包み込まれる。けれど、心の底から湧き上がってきたのは、馴染み深い安堵感だった。

 彼から漂う、心地よいシダーウッドの冷涼な香りが、私を優し...

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