第430章

 西田蓮は即答した。けれど、私の頬をぬぐう手つきは驚くほど優しい。

「正確に言うとね、君のお父さんが残した海運のコードだよ。当時、麻薬密売人の貨物船を、たまたま傍受しちゃった可能性が高い」

 その言葉で、父が事故に遭う前のことを、ふいに思い出した。

 一度だけ、私は家に戻ったことがある。あれが父と顔を合わせた最後になった。書斎で向かい合い、長いこと取りとめのない話をした。

 あの夜更け、父の書斎の灯りは明け方まで消えなかった。机の上には、航海図がびっしりと広げられていて――

 私は思わず顔を両手で覆った。

 父の周到さが残してくれたのは、一生かかっても使い切れないほどの財産だけだ...

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