第6章
直也は頷くと、意気揚々と駆け出していった。
しかし、すぐに戻ってきて、私に向かって首を横に振った。
「ママの携帯、見つからなかった。中には奈美さんの携帯しかなかったよ」
私ははっとした。「奈美さんの携帯が、私のナイトテーブルに?」
直也はこくりと頷いた。
胸の内にむかつきが込み上げてくる。どうやらあの二人は、もう堂々と一緒に住み着き、田中奈美に至っては自分をこの家の奥様だとでも思っているらしい。
心の中で冷笑する。身の程をわきまえなさい!
私は表情には出さず、直也に話し続けた。「じゃあ、パパの書斎に行って、ママのために探してみてくれる? もし誰かに見つかったら、これは私たち二人の秘密だってこと、覚えておくのよ。誰にも言っちゃだめだからね!」
子供というものは、こういう秘密の任務のようなものに生まれつき興味があるらしい。その言葉を聞くや否や、すぐに跳ねるようにして去っていった。
残念ながら、しばらくしてまた手ぶらで戻ってきた。「パパの部屋の引き出し、全部鍵がかかってて、見つからない」
どうやら林田翔太は、私が外部に連絡するのを恐れて、私の携帯を隠してしまったようだ。
私は直也の頭を撫でた。「見つからなくてもいいわ。これは私たち二人の秘密だってこと、忘れないでね。誰にも言っちゃだめよ」
直也は真剣な顔で頷くと、私の部屋を出ていった。
しかし私は、真っ暗な部屋を見つめながら途方に暮れていた。林田翔太は一体どこに私の携帯を隠したのだろう? やはり書斎にあるのだろうか? どうやら一度、機会を見つけて行ってみる必要がありそうだ。
幸運はすぐに私に微笑んだ。その晩、家が停電したのだ。
直也が走ってきて、パパと奈美さんと一緒に外食してくると告げた。私は頷いただけで、何も言わなかった。
心の中では、抑えきれない興奮が渦巻いていた。チャンスが、向こうからやってきたのだ。
皆が出かけた後、家は果てしない静寂に包まれ、あたり一面真っ暗だった。
私はベッドから起き上がると、二階の書斎へ向かい、ドアノブを捻った。
書斎は静まり返っていたが、私の心臓は太鼓のように鳴り響いていた。家には誰もいないとわかっているのに、今この瞬間、私は死ぬほど怖かった。
書斎のガラスキャビネットが窓の外の月光を反射し、中には会社がここ数年で得た実績が飾られている。
一つ一つを流し見し、視線は林田翔太のあの執務机の上で止まった。
引き出しに手を伸ばして引いてみる。やはり直也が言った通り、全く開かない。林田翔太という男は極めて用心深く、鍵を見つけやすい場所に置くようなことは絶対にしない。
案の定、一通り探してみたが、何も見つからなかった。
私は書斎に立ち尽くし、林田翔太が鍵をどこに置くかを注意深く考えた。
私が知る彼の性格からして、彼はおそらく何も信用しないだろう。唯一信用するのは自分自身だけ。つまり、鍵は肌身離さず持ち歩いているはずだ。
しかし今、彼は家にいない。またしても考えが行き詰まってしまった。
ふと、閃いた。
林田翔太という男は、仕事とプライベートを極めて明確に分ける。今夜のように外食に出かける際は、ブリーフケースを持ち歩くこともなければ、会社の電話に出ることもない。
そしてその鍵は、彼のブリーフケースの中に入れられている可能性が非常に高い。
そう思うと、私はすぐに興奮して階下へ降り、玄関に置いてある林田翔太のブリーフケースを探した。
案の定、銀色の光を放つ鍵束がその中にあった。
私は鍵を手に取り、まっすぐ二階へ向かい、机の引き出しを一つずつ開けていった。すると、やはり一つの引き出しの中から自分の携帯を見つけた。
私は逸る気持ちで電源ボタンを押したが、携帯は全く反応しなかった。
それも無理はない。もう一年以上も使っていないのだから、おそらくバッテリーが切れて電源が落ちてしまったのだろう。
しかし今は停電中で、充電することもできない。
そうなれば、この携帯は私にとってただの文鎮にすぎない。
私が焦ってうろたえていると、書斎の電気が突然ぱっと点いた。
心臓がどきりと跳ね、林田翔太が帰ってきたのかと思った。
家中に何の物音もしないことに気づき、ようやく電気が復旧したのだと理解した。
よかった、天も私に味方してくれている!
私は興奮しながら充電器を見つけて携帯を充電すると、すぐに画面が明るくなった。
記憶を頼りにパスコードを入力したが、なんと全く開かない。
そこでようやく、林田翔太のあのろくでなしが、私のパスコードまで変えてしまっていたことに気づいた。
何度かパスコードを試したが合わず、携帯は三十秒間ロックされてしまった。
このままでは、せっかくの貴重な時間を無駄にしてしまう。私は息を殺し、冷静に林田翔太がどんなパスコードを使いそうか考えた。
三十秒が過ぎ、私は鬼が差したように田中奈美の誕生日を入力してみた。すると、携帯が開いたのだ。
心は怒りに満ちていた。林田翔太と田中奈美が不倫しているだけでも許せないのに、私の携帯のパスコードまで田中奈美の誕生日に設定するなんて、全く私を眼中に置いていない。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。私は急いで一番の親友である小林奈菜に電話をかけた。
この状況で、私が信じられるのは彼女だけだった。
電話はすぐにつながり、小林奈菜の声は以前と変わらず、気だるそうだった。
「もしもし? 林田翔太? うちの由依はどうしてるの?」
どうやら林田翔太は、私のこの携帯で何度も小林奈菜に電話をかけていたようだ。でなければ、彼女がこんな反応をするはずがない。
私は口を開いた。「奈菜、私よ!」
小林奈菜ははっとした。「由依? 体の調子はどうなの? この一年、お見舞いに行こうとしたのに、林田翔太がどうしても会わせてくれなくて、頭にきちゃう。あいつのこと、懲らしめてやってよ!」
小林奈菜の声を聞いていると、私の目からは知らず知らずのうちに涙がこぼれ落ちた。
「奈菜、私たち、林田翔太に騙されてたの」
私は今、自分が気づいたことを洗いざらい彼女に話した。
小林奈菜は怒りのあまり立ち上がりそうになっていた。「ありえない、あの林田翔太と田中奈美がそんなことを? しかも私、一年以上もあいつに騙されてたなんて!」
「待ってて、今すぐそっちに行くから」
私は慌てて小林奈菜をなだめ、言った。「奈菜、今はまだだめ。子供たちが二人ともあの人たちの手の中にいるの。私が逃げるのは簡単だけど、私は自分の子供たちと会社を、全部取り返さなくちゃいけない!」
私は小林奈菜に、連絡用の携帯を何とかして差し入れてくれるよう頼んだ。この携帯で彼女と長電話をするわけにもいかない。林田翔太に勘づかれる恐れがあるからだ。
電話を切った後、通話履歴を削除すると、心の底から安堵感が湧いてきた。小林奈菜の助けがあれば、ずっと心強い。
私はベッドに戻って横になったが、ふと、鍵を林田翔太の鞄に戻していないことに気づいた。
私は起き上がって階下へ降り、素早く鍵を戻した。しかし、ちょうど二階へ上がろうとしたその時、玄関のドアが開く音がした。
直也の声が聞こえる。「わっ、電気ついた!」
この状況では、どうあがいても部屋に隠れることはできないと悟った私は、開き直ってキッチンへ行き、水を一杯注いだ。
キッチンから出ると、ちょうど林田翔太と田中奈美と目が合った。
二人ははっとした顔で、私が階下にいるとは思ってもみなかったようだ。
「由依ちゃん? どうしてここに?」
私は手に持ったグラスを軽く掲げてみせた。「一体どこに行ってたの? 喉が渇いてたまらなかったから、自分で水を飲みに降りてきたのよ」
