第237章 調印式

彼の声は低く沈み、いつもの飄々とした調子とはまるで別人だった。

「オーロラ・バイオの新薬が特許侵害だって通報が入った。向こうの会社がもう提訴してる」

「記者がどこで嗅ぎつけたのか知らないが、明日の調印式には確実に押しかけてくる」

谷口美桜の指が、ふっと止まる。

「誰が通報したの?」

山本由樹は一拍置き、刃みたいな声で言った。

「俺の叔父の手の者だ」

山本家が国内で再び事業を広げていく以上、最初の戦略提携はとりわけ重要だ。

初手の調印でつまずけば、後の展開は一気に苦しくなる。

だから山本由樹は谷口美桜と組んでいても、あくまで会社の代表として調印に臨むだけで、決まった役職は与え...

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