第40章 引っ越す

谷口美桜は別荘へ戻るなり、まっすぐ使用人部屋へ向かった。前もって用意しておいたスーツケースを引っ張り出し、忘れ物がないか、もう一度だけ丹念に確認する。

そして最後に視線が落ちたのは、スーツケースの内側の隠しポケット――そこに、偽造の結婚証明書が一枚、静かに収まっていた。

山﨑蓮に後から面倒を起こされる心配さえなければ、今すぐ火をつけて灰にしてしまいたい。

けれどできない。これは、いちばん大事な証拠だ。

谷口美桜は小さく息を吐き、荷物をすべて閉じると、迷いなくこの家を出た。

三年間「暮らしてきた場所」から、「出ていく場所」へ変わるのに、そう時間はかからなかった。

一方その頃、下山柚...

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