第55章 退院

谷口美桜の荷物は、哀しいほど少なかった。もう一度だけ確かめ、別荘に自分の私物が一切残っていないことを確認してから、彼女はそこを出た。

退職願はすでに承認済み。山﨑蓮も、もう競業避止契約を盾に脅すことはできない。――ようやく、自由。

彼女は最後に一度だけ別荘の方角を振り返り、胸の奥で完全に別れを告げた。

山﨑蓮を愛したことがある。

それは、人生最大の汚点だ。

けれど、山﨑蓮のいないこれからは、きっと全部が「いい日」になる。

その夜、山﨑蓮は接待だった。下山柚奈に夜食を届けるのは丸山虎太郎に任せ、自分はまっすぐ帰宅する。

谷口美桜がそばにいて場を回してくれないせいで、今日は少し飲み...

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