第108章 思いがけない男

くじ引きの最中、まさか「前田謙信」が姿を現すとは。彼も囲碁協会の会員だったのだ。伊藤健と親しいのも、たまに碁を打つ仲だかららしい。中島結子は前田謙信を見つけると、興奮気味に駆け寄った。目を三日月のように細め、猫なで声で甘える。

「先輩、先輩も囲碁協会の方だったんですか? 奇遇ですね、わたしも入りたいって思ってたとこなんです」

驚いたふりをしているが、実は前田謙信が今日ここに来ることは先刻承知だった。彼女がわざわざ囲碁を学び始めた理由の一つも、まさにこれだ。

前田謙信は軽く頷き、くじを彼女に手渡すと、愛想よく、だが事務的に言った。

「それなら頑張って」

そして、後ろがつかえてい...

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