第362章

 撮影がスタートし、カメラが中島結子に向けられる。彼女は緊張した面持ちで両脚で馬の腹を軽く挟み込んだが、馬はその場に立ち尽くしたままピクリとも動かない。モニターを睨みつけていた監督が不満げに声を張り上げた。

「カット! 進めよ、中島結子。突っ立って何やってんだ? 一体できるのか、できないのか!」

 今日はこの大規模な撮影のシーンがまだまだ数多く控えている。出鼻をくじかれては、監督の機嫌も損なわれるというものだ。特に山口夏美と前田謙信が見せた鮮やかな身のこなしの直後なだけに、馬上でこわばる中島結子の姿はなおさら悪目立ちしていた。

 中島結子は振り返り、顔をしかめて言い返した。

「動かし...

ログインして続きを読む