第52章 鳳凰の求愛

悠揚とした琴の音が響き渡り、山口夏美は次第にその音色に浸っていった。

彼女の腕の中の花ちゃんも静かに膝の上に伏せ、まん丸な瞳を瞬きもせずに岡本凜太郎をじっと見つめている。

前奏は軽快で穏やか。まるで少女が渓流のほとりをそぞろ歩き、谷は静寂に包まれ、自由気ままな雰囲気だ。

次第に曲調は情緒を帯びていき、彼女は誰かが寝返りを打ちながら、想い人をしのぶ姿を幻視したかのようだった。

旋律はますます速く、高らかになっていく。荒れ狂う海の波のように、吹き荒れる嵐のように、そして、情熱的な恋人のように……。

山口夏美はその中に込められた深い愛情とロマンに心を動かされ、目尻が潤んだ。彼...

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