第2章:あなたのような人は存在してはいけない

ブライオニー視点

心臓がすとんと落ちた。

落ち着け、と私の狼が囁く。あいつの望みどおりにするな。

私は着替えを続け、何も聞こえなかったふりをした。きっとそのうち飽きて、別の誰かのところへ行く。そう思いたかった。

更衣室の個室の扉が乱暴に開け放たれた。そこに立っていたのはヴィクトリアだった。左右にはゾーイとクロエ。二人とも、もう訓練用の支度を整えている。ヴィクトリアのそれは規定より明らかに身体にぴったり仕立てられていた――三つ子の気を引くつもりなのだろう。

「おまえに言ってんのよ、化け物」彼女はそう吐き捨てて、一歩踏み込んできた。私は壁際へ押しやられる。「今日、ちっちゃいお友だちでも作ったんだって?」

「何もしてない」

「そこが問題なのよ」彼女の手のひらが、私の頭の横の壁に叩きつけられた。「おまえは目立たずにいろって言われてるでしょ。新入りをたぶらかして回るんじゃない」

ゾーイとクロエが出口を塞ぎ、同じような嘲笑を浮かべた。いつもの手口。身体が勝手に覚えている。

「場所を思い出させてあげたほうがいいんじゃない?」ゾーイが提案した。必要以上に嬉しそうな声で。

ヴィクトリアは私の髪をひとつかみし、容赦なく引き上げた。頭皮に痛みが走ったが、私は歯を食いしばり、声を漏らさなかった。

これをやり過ごせ。自分に言い聞かせる。すぐ終わる。

「自分が何者だと思ってるの?」彼女の声が囁きに落ちる。「ベータの娘? 笑わせないで。あんたなんて、靴の裏の泥ほどの価値もない」

「おまえの母親が死んだのも当然よ。月の女神ですら、おまえが存在しちゃいけないって分かってたんだから」クロエが合いの手を入れる。「ほんと、無駄」

私は黙っていた。やり返せば、もっとひどくなるだけだ。

「黙ってないで返事しなさいよ!」ヴィクトリアが私の肩を強く突き飛ばした。タイルの壁にぶつかり、ようやく塞がりかけていた背中の傷が悲鳴を上げる。「あの新しい子――レイラ、だったっけ?」

脈が跳ね上がった。だめ。レイラだけは巻き込まないで。

「彼女は私と関係ない」声が震えないように必死で抑えた。「たまたま隣に座っただけ」

「嘘くさ」クロエが鼻で笑った。「二人で話して、いっしょにここまで歩いてくるの見たし」

ヴィクトリアが顔を寄せてくる。安っぽい香水の匂いに、むき出しの悪意が混じって鼻を刺した。「よく聞きな、クズ。あの新入り、なかなか見込みがありそう。でもね、あんたみたいなゴミとつるんでたら、ここでの人生は地獄になる。最後にあんたの友だちになろうとした子がどうなったか、覚えてるでしょ?」

覚えているに決まっている。去年転校してきて、私に優しくしてくれた子。ロッカーは荒らされ、鞄は便器に突っ込まれた。一か月もしないうちに、彼女は転校していった。それ以来、誰も私に近づこうとしない。

「そんなの、ひどい」止める前に言葉がこぼれていた。

ヴィクトリアの目が氷みたいに冷たくなる。「ひどい? あんたが私に“ひどい”なんて語る権利があるとでも?」

彼女は髪を放し、次の瞬間、手のひらが私の頬を打った。狭い空間に乾いた音が反響する。頬が一気に熱を持ち、目に涙が滲んだ。

「人生なんて最初から公平じゃない。まして、あんたみたいに存在しちゃいけない化け物ならね」彼女は白金の髪を撫でつける。「あんたの存在そのものが間違いなのよ」

彼女の爪が私の腕をひっかき、怒ったような赤い線がいくつも残った。「それにね、私だって今日は最高の日だったのよ。マクスウェルからメッセージも来たし。でも、あんたの惨めな友だち作りごっこを見たら? 吐き気がする」

マクスウェル――三つ子のアルファのうちの一人。ヴィクトリアは中学の頃からあの三人に執着していて、どれか一人が自分の伴侶になると信じ込んでいる。

「現実ってものを教えてあげたほうがいいよね」ゾーイがはしゃいだ声で言った。「自分の居場所、思い出させてさ」

ヴィクトリアは少し考えるふりをしてから、私の血が凍るような笑みを浮かべた。「そうね。犬には犬小屋の場所を教えなきゃ」

彼女は鞄の中から何かを取り出した。恐怖で、瞳がきゅっと縮むのが分かった。

銀の粉。

「やめて、お願い――」ついに堪えきれず、声が震えて漏れた。

「お願い?」ヴィクトリアが笑った。「化け物が懇願の仕方を知ってるわけ? 残念――もう遅い」

彼女が瓶の蓋を開けると、ゾーイとクロエが私の腕をつかみ、壁のほうへ顔を向けさせた。もがいたけれど、二人のほうが力が強い。

「シャツをめくらせて」

トレーニング用のシャツが乱暴に引き上げられ、傷だらけの背中が冷たい空気にさらされる。思わず身震いした。

「この痕だらけの背中、見てよ」ヴィクトリアが嘲った。「失敗のたびにつけた印の記録帳みたい。今日の分も一行足しとく?」

銀の粉が背中に落ちた瞬間、液体の火が流し込まれたみたいに熱が走った。叫び声を聞かせてやるものかと、唇を噛みしめる。血の味がした。

――耐えろ。私の狼が唸る。――折らせるな。

「ブリ? そこにいるの?」

ロッカールームのざわめきを切り裂くように、レイラの声が澄んで届いた。心配そうで、まっすぐだった。ヴィクトリアの手が宙で止まる。

「ちっ」彼女が舌打ちする。

「ブリ?」今度はもっと近い。「大丈夫? 遅れちゃうよ」

ヴィクトリアは慌てて瓶に蓋をし、耳元に毒みたいな囁きを落とした。「今日は運がよかっただけ。でも見張ってる。あの新入りに近づくな。次はこんなに甘くない」

声がさらに低くなる。「次は一本まるごと使う。もっとひどいのもあり得る。惨めなプライドを守る価値があるか、よく考えな」

三人は素早く抜け出していった。私は壁にもたれかかり、息を荒くする。背中一面を焼く痛みで、立っているのさえつらい。

――しっかりしろ。私は自分に命じた。――レイラに見せるな。

歯を食いしばってシャツを下ろす。動くたびに、できたての火傷が引きつった。洗面台で冷たい水を顔に浴びる。鏡の中の私は死人みたいに青白く、頬には真っ赤な手形がくっきり残っていた。

深呼吸。表情を整えろ。痛みを隠し、何もないふりをする――それが私の日課だった。

個室の扉を押し開けると、洗面台のそばで待っていたレイラが立っていた。私を見るなり、顔がぱっと曇る。

「いた」安堵が声に滲み、すぐに眉間の皺が深くなる。「その顔、どうしたの?」

「ドアにぶつかった」私は滑らかに嘘をついた。「ほら、行こう。本当に遅れる」

彼女は明らかに信じていなかったが、ただ頷いた。私たちはロッカールームを急いで出る。背中の痛みが歩き方に出ないよう、必死で平然を装いながら。

これが私の人生。ベータ・レイモンドの娘としての、「素晴らしい」日々。

訓練場に足を踏み入れた途端、肩にのしかかっていた重さが少しだけ軽くなった。ここには汗と土と、正直な努力の匂いが満ちている――私の世界でいちばん馴染み深い匂いだ。ほかの何がどれほど残酷でも、訓練場だけは私の避難所だった。

「全員、まずは十分間ウォームアップから!」デルタ・グリフィンの声が訓練場に轟く。

グリフィンは、私のことを本気で気にかけてくれる数少ない人の一人だった。二年前、私の狼が事故みたいに覚醒したとき、二日間行方不明だった私を、シルバー・パインズで意識を失ったまま見つけたのは彼だった。彼とルナ・イザベラが、私の命を救ってくれた。

それ以来、二人は秘密の守り手になった。

私はいつもの隅の場所へまっすぐ向かった。懸垂バーとサンドバッグが並ぶ一角――ひとりで準備運動ができる場所だ。レイラが興味深そうに周りを見回しながらついてくる。

「いつもこっちで準備運動してるの?」彼女が訊く。

「うん」私はストレッチを始め、背中を走る新しい銀の火傷の悲鳴を無理やり無視した。「静かだから」

――安全だから。心の中で付け足す。――グリフィンの目の届くところじゃ、ヴィクトリアたちも手は出しにくい。

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