第7章

零時四十七分。

貴志が弁護士に電話をかけた時点で、私たちに残された時間はそれだけだった。

「譲渡書類を準備しろ」受話器に向かって告げる貴志の声は、その目に宿る地獄とは裏腹に、落ち着き払っていた。「芦田信託基金の完全な管理権だ。一時間以内に、すべてを法的拘束力のあるものにしろ」

芦田法律事務所、午前二時四十七分。

会議室は妙に厳かな雰囲気に包まれていた。貴志は、大手企業の倒産案件でも任されたかのような険しい表情の三人の弁護士と、長テーブルを挟んで正対していた。窓からは曇り空が見え、室内の緊張感をさらに高めていた。

「芦田さん」弁護士が慎重に口を開いた。「一度この書類に署名なさ...

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