第419章 演技

神崎遠は虚空をひと掴みした。朝日明美の服の裾は、指先をすり抜ける。すぐさま車のドアを開け、追いかけようとする。

田中大介が慌てて止めた。

「頭、まだ血が出てるだろ。どこ行く気だよ」

神崎遠はそんなことを気にしていられない。ドアを押し開けて車を降りると、ためらいもなく車の流れの中へ消えていった。

切羽詰まった背中を見送り、田中大介は小さく首を振る。どうしようもない、とでも言いたげにハンドルを切り返した。

一方その頃、藤原深は神崎遠から届いたメッセージを見て、眉をわずかに寄せた。

――惨めアピールをしろ、だと?

藤原家の後継が、わざわざ同情を買って注目を集める必要があるっていうのか...

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