第28章

その瞬間、千鳥凪紗の心臓は止まりかけた。

声が、藤野拓介と瓜二つだったからだ。

彼女は思わず探るような視線を男に向け、藤野蓮司もまた彼女を見返していた。

その瞳に浮かぶ揶揄の色を受け止めながら、凪紗は努めて冷静さを保ち、一言一句、はっきりと告げた。

「藤野さん、申し訳ありません。千鳥家と藤野家の婚約については存じていますが、あなたと結婚することはできません」

ただでさえ冷ややかだった車内の空気が、その一言で霜が降りたように凍りついた。

藤野蓮司の瞳から揶揄の色が消える。彼は何も言わず、ただ静かに彼女を見つめていた。

その視線に頭皮が痺れるような感覚を覚えながらも、凪紗は今日こそ...

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