第69章

千鳥凪紗がマンションへ送り届けられたのは、午前十時を回った頃だった。

部屋に入ると、藤野拓介がソファに座って本を読んでいた。物音に気づいて顔を上げ、その瞳が優しく凪紗を捉える。

「おかえり」

「うん」

凪紗は歩み寄ると、隣に腰を下ろして自然に彼の肩へ頭を預けた。

「昨日は邪魔しちゃわなかった?」

「いいや」

拓介は本を置き、彼女の肩を抱き寄せた。

「友人の家は快適だったか?」

昨夜の出来事が脳裏をよぎり、凪紗の心は複雑に揺れた。それでも彼女は小さく頷いた。

「まあまあかな」

彼に心配はかけたくない。それに藤野蓮司の件や名家の因縁なんて、自分たちからはなるべく遠ざけておき...

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