第93章

あの二人の騒ぎのおかげで、千鳥凪紗の意識は一時的に藤野拓介の件から離れていた。だが会社に着いた途端、窒息しそうなほどの焦燥感が再び彼女を飲み込んだ。

スマホは沈黙したままだ。椎名水緒とは糸が切れたように連絡が途絶えている。藤野拓介の安否すら定かではないのに、今の彼女には見舞いに行く資格さえなかった。

昼休みが近づいた頃、受付から花が届いていると連絡が入った。

凪紗は胸騒ぎを覚えつつロビーへ降りる。そこには派手で悪趣味な真紅のバラの花束を抱えた配達員が待っていた。花束に添えられたカードの名前は、やはり藤野実和だ。

またあいつか。

凪紗は強烈な吐き気を覚えた。

受け取り拒否しようとし...

ログインして続きを読む