チャプター 117

ターディ市の夜明けは遅い。ようやく辺りが明るくなったのは、午前八時のことだった。

ギリーがサミュエルの腕の中で鼻を擦り寄せ、彼を起こした。サミュエルが目を開けると、テレサは既に服を着替え、化粧をしていた。どうやら出かける支度をしているようだ。

彼は急いで上半身を起こした。「もう行くのか?」

テレサはコンパクトミラーを手に口紅を塗りながら、「ええ」と答えた。

その唇を引き結ぶ彼女の瞳には、どこか寂しげな色が宿っていた。

サミュエルは立ち上がると、彼女の背後から優しく腰に腕を回した。

「もう一日、一緒にいられないか?」

「だめよ、無理だわ」彼女はきっぱりと言った。

その返事は、彼を...

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