チャプター 875

ひとしきりの春雨がターディ市全体を濡らし、やがて冷ややかな月が顔を覗かせた。その佇まいは、街に漂う湿った空気に実によく馴染んでいた。テレサはアエバサ邸の裏口で車を降り、自身の居住区へと歩みを進めた。

自室までは少し距離があり、その道すがら、彼女は小さな庭を通り抜けることになる。

そこはヒルダが様々な草花で埋め尽くした庭だった。植物の茎が支柱に絡みつき、プロのフローリストの指導のもと、見事なアーチを描くように整えられている。色とりどりの照明が庭をライトアップし、あたりはどこか幻想的な雰囲気に包まれていた。

ここのところ、サミュエルは山側の地域と市街地を往復する日々を送っていたが、生活の拠点...

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