第932章

ジェロームは自らヒルダのために茶を注いだ。その長くほっそりとした指先は、極めて優美だった。彼は手を動かしながら、「昨日、ジェネラルを連れて旧皇居へ行ったのですが、思いがけず迷子になってしまいましてね。随分と探し回りましたよ」と言った。

ターディ市にあるボーウェン家の宮殿は、かつてのボーウェン家の構造を今に残す旧皇居となっていた。数百年前であれば自由に出入りできただろうが、今では入場券が必要なため、彼は少なからず不満を感じているのかもしれない。

ヒルダは返答に窮し、思わず苦笑した。「旧皇居は確かに人が多いですから。猫どころか、迷子になった人間でさえ見つけるのは大変でしょうね」。ジェロームが滑...

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