第1章
私は自分専用の宝飾工房で、ソファにもたれ、片手をお腹に添えていた。
妊娠八か月。赤ん坊は朝からずっと蹴っている。
「ねえ、あなたが生まれたら、ママが世界で誰も持っていないものを作ってあげる――洗礼の記念飾り、あなたのためだけのね」
私はひとりで微笑んだ。
ドン――!
外から工房の扉が蹴り破られ、激しく壁に叩きつけられる。
私はびくりと身を起こし、反射的に両腕を腹へ回した。
逆光の中、二つの影が踏み込んでくる。
誰かを認めた瞬間、血の気が引いた。
――真。
三年前。新京で名の通った連中が揃う婚約披露の席で、真は別の女の腕を取り、私を置き去りにした。私は一晩で笑いものになった。
そして今、真の腕に絡みついている女――あの日、彼を走らせた張本人が、相澤瑠璃だ。
「いやあ、いやあ」真は私を見下ろし、視線を腹に釘づけにした。
「三年か、千秋。いいご身分だな」口元が歪む。
「俺が捨てたあと、橋から飛び降りると思ってたのに。見ろよ――どこの馬の骨の子かもわからねえガキを腹に入れてやがる。恥知らずが」
息を吸う。吐く。
「真、ここは私の工房よ。出て行って」
「出て行け、だぁ?」真は笑い、瑠璃の腕を放して部屋を横切った。ひと蹴りでローテーブルがひっくり返る。ガラス片とデザイン画が床に散った。
「いい子ぶるな。新京中が知ってる。お前は俺が捨てた女だ。なのにその腹――どういうつもりだ、千秋? ガキ産んで金持ちのジジイでも脅す気か?」
瑠璃は口元を手で隠して、柔らかく笑った。甘さの皮を被った毒そのものだ。
「ひどいわ、真。もしかしたら、戻りたいだけかもしれないじゃない。ドン剛は何より血筋を重んじるもの。彼女がどこの誰とも知れない男を捕まえて、子どもをあなたの子だって言い張ろうとしたら――」
「そんな度胸あるわけねえ」真は私の顔の前に指を突きつけた。
「誰の子だ、千秋。言え。俺の子だなんて一言でもほざいたら、殺すぞ」
笑いそうになった。
真は三年も家から離れ、街の外をうろついていただけだ。家の中でこの三年に何が起きたのか、欠片も知らない。
私はソファから立ち上がり、真の目をまっすぐ見返した。
「落ち着いて、真。その子はあなたの子じゃない。あなたみたいな男に父親の資格はないわ」
真の顔が強ばる。
「でもその子は神崎の子よ」私は続けた。
「そして、あなたが決して――二度と、馬鹿みたいに喧嘩を売ろうなんて思わない男の子」
「神崎だと?」真は一瞬ぽかんとし、それから顔が醜く歪んだ。
「汚ねえ女だな。分家の外れの、取るに足りねえ奴と寝たってわけか? それで俺を越えたつもりか? この家で重要なのは俺だ。俺が跡取りなんだよ」
信じられないのだ。そちらの可能性に思考が向くことすら、許せないのだろう。傲慢さが、こちらの手間を勝手に省いてくれていた。
「いいだろ」真は吐き捨てた。
「その腹の出来損ないで神崎の名を泥に塗るってんなら、俺が自分の手で片づけてやる」
真は手を上げ、私の頬を思いきり打った。
