第1章
昨日、あのコーヒーカートはなかった。
松ノ木通りと二番街の角に差しかかったところで、私は歩くペースを落とした。裁判所までのいつもの通勤路だ。その洗練された銀色のカートは、まさしく『グラインド・コーヒー』があったはずの場所に鎮座していた。この半年、私の朝のカフェイン中毒を満たしてくれていた小さな店だ。窓には手書きの張り紙がしてある。「一時休業中――身内に不幸があったため」
最高。ほんっと、ついてる。
腕時計を確認する。午前七時四十二分。開廷は九時で、それまでに三件の訴訟ファイルに目を通さなければならない。カフェインの摂取が必要だった。しかも、いつものやつじゃなきゃダメなのだ。キャラメルマキアート、フォームなし、エクストラホット、シロップは少なめ。それでなければ、私の頭は正常に機能しない。
そのコーヒーカートは、見たところちゃんとしていた。清潔なステンレスのカウンター、本格的なエスプレッソマシン、小さな黒板のメニューまである。中にいる店員の男は私に背を向けていて、黒い野球帽を目深にかぶり、黒いエプロンを身につけていた。グレーのパーカーの上からでも、その肩幅が広いのがわかる。
私は窓口に近づき、軽く咳払いをした。「すみません」
彼はすぐには振り向かなかった。機械的な正確さでカウンターを拭き続けている。その動きのどこかに、妙な見覚えがあるような気がしたが、考えを振り払った。遅刻しそうだし、神経質になっているだけだ。
「キャラメルマキアートを一つ」私は少し声を張った。「フォームなし、エクストラホット、シロップ少なめで」
「かしこまりました」
その声を聞いた瞬間、心臓が凍りついた。
うそ。そんなはずない。ありえない。
血の気が引いていく。手のひらが汗ばみ、呼吸が浅くなった
彼がカートの中を動き回る間、私は凍りついたように立ち尽くしていた。まだこちらに背を向けたままだ。カップに手を伸ばす仕草、集中するときのわずかな首の傾げ方――ああ、神様。自分の心臓の鼓動と同じくらい、その仕草をよく知っていた。
エスプレッソマシンがシューッと音を立てる。私たちの間に湯気が立ち上った。手が震え始めたので、コートのポケットの奥深くに押し込んだ。
ここは青海市。人口五十万の地方都市だ。彼にばったり会う確率なんて、ゼロに等しいはずだ。馬鹿げている。
だが、そのとき彼が振り向いた。
黒い瞳。シャープな顎のライン。七歳の時に自転車で転んでできた、左眉の上の小さな傷跡。
是枝拓真。私の元カレ。十八ヶ月もの間、顔も見ていなければ、言葉も交わしていない男。
私たちがうまくいくなんて信じるのが怖くて、自分から別れを告げた男。
彼は提供口の窓越しに私を見つめていた。その顔は注意深く無表情を装っている。彼の顎の筋肉がぴくりと動いた――それが、彼も私と同じくらい動揺していることを示す唯一のサインだった。
「お待たせしました」彼はそう言って、狭いカウンター越しにカップを滑らせた。
私は無意識にカップに目を落とし、それから再び彼を見上げた。「拓真。一体どういう――」
「四百五十円になります」
彼の声は平坦で、事務的だった。まるで赤の他人に対するように。まるで、二年もの間、私のコーヒーの好みを完璧に覚えてくれたことなどなかったかのように。まるで、そもそも私にキャラメルマキアートを教えてくれたのが彼ではなかったかのように。
震える指でカップを手に取り、一口飲んだ。
苦い。圧倒的に、攻撃的なまでに苦い。
ブラックコーヒー。砂糖もミルクもキャラメルも入っていない。ただただ純粋で強烈なエスプレッソの味に、思わず顔をしかめ、吐き出しそうになった。
「なんなのよ、これ!」私は彼を睨みつけ、声を荒らげた。
「コーヒーです」
「私が頼んだものと違うじゃない!」
「すみません」彼は肩をすくめた。まったく申し訳なさそうには見えない。「聞き間違えたみたいです」
その素っ気ないあしらいは、まるで平手打ちを食らったかのようだった。怒りと、羞恥と、そして名前をつけたくないもっと生々しい何かが混ざり合い、頬に熱が集中した。
「私の注文をたまたま忘れたって言うの?」冷静さを保とうと必死だったのに、私の声は上ずってしまった。「本気で言ってるの、拓真?」
彼の視線が、私の後ろにでき始めた小さな列へと一瞬流れ、そしてまた私の顔に戻った。「あの、お客さん――」
「お客さん?」私は笑ったが、そこにユーモアは欠片もなかった。「へえ、傑作ね。本当に私のこと知らないフリするわけ?」
「お客様、もしご注文にご満足いただけないようでしたら――」
「お客様なんて呼ばないで!」意図した以上に、鋭い言葉が口をついて出た。列に並んでいた数人がこちらをじっと見ている。私の仕事用の冷静な仮面が、ひび割れていくのがわかった。「私が誰だか、私がどんなコーヒーを好きなのか、あなた全部わかってるはずでしょ!」
声が震えている。周りの視線が痛い。
「何か問題でも?」私の後ろにいた女性が心配そうに尋ねてきた。
拓真の顎に力がこもる。彼はわずかに身を乗り出し、声を低くした。「美琴――」
「やめて」彼が私の名前を口にする前に、私は遮った。彼がこの状況を現実のものにしてしまう前に。「お願いだから、言わないで」
私はハンドバッグの中を探り、千円札を一枚つかみ出すと、カウンターに叩きつけた。
「お釣りはいらない」私は冷たく言い放った。
だが、私が背を向けて立ち去ろうとしたそのとき、彼は私の手首を掴んだ。
「美琴」彼の声は今度は静かで、切迫していた。目が真剣だった。「聞いてくれ。この場所は安全じゃない。もうここには来るな、いいな?」
私は彼の手が自分の腕にあるのを見下ろした。彼の肌は温かく、見覚えのない仕事でできたであろうタコで硬くなっていた。指の関節には、以前はなかった小さな切り傷がある。
「何言ってるの?」私は囁いた。
彼の目は通りを素早く動き回り、何か、あるいは誰かを探しているかのように辺りを窺っていた。
「とにかく俺を信じてくれ。頼む。コーヒーはどこか別の店で買ってくれ」
私は腕を振り払い、自由にした。心臓が肋骨に激しく打ちつけている。「あなたを信じろって?」声が裏返る。「十八ヶ月も音沙汰なしで、今さら何を?」
「あの?」後ろの女性がさらに近づいてきた。「誰か呼びましょうか?」
「いえ」私はカートから後ずさりながら、素早く言った。「いえ、大丈夫です」
だが、大丈夫なわけがなかった。この状況の何一つ、大丈夫ではなかった。
拓真は背筋を伸ばし、その表情は再び固く閉ざされた。「次のお客様」彼はそう呼びかけ、すでに私から顔を背けていた。
私はもう一呼吸の間そこに立ち尽くし、あのひどいコーヒーを握りしめながら、今起きたことの整理をしようとした。
彼は変わっていた。疲れている。十八ヶ月前にはなかった隈が目の下にあり、その表情には胸が痛むような、何か用心深い影が差していた。
あの優しかった拓真は、どこに行ってしまったのだろう。
そして、*この場所は安全じゃない。*って
一体どういう意味だ?
答えを問い詰めたかった。彼を揺さぶり、なぜここにいるのか、なぜ違う飲み物を出したのか、まるで私たちが何かの危険に晒されているかのように安全について話すのか、説明させたい。
だが、代わりに私は背を向け、歩き出した。コーヒーには手をつけず、朝の習慣は完全に破壊されてしまった。
私の後ろにいた女性がカートに近づく。「バニララテを一つ」彼女は明るく言った。
「かしこまりました」拓真は温かく、プロフェッショナルな声で答えた。
濡れた歩道に私のヒールの音がカツカツと響く中、エスプレッソマシンが再び動き出す音が聞こえた。
仕事中はほとんど上の空で、落ち着かなかった。その夜は眠れなかった。拓真の警告が、何時間も、何時間も、頭の中で再生され続けた。
午前六時になる頃には、眠るのを諦めてシャワーを浴びた。
選択肢は二つあった。別のコーヒーショップを見つけて、昨日のことなどなかったことにする。あるいは、あのカートに戻って、答えを要求する。
私は鏡の中の自分を見つめた。目の下には隈ができ、髪も乱れている。
でも、諦めるつもりはなかった。
私の頑固な性格がどちらを選んだか、言うまでもないだろう。
