第32章

松原南は深く息を吸い込み、胸の奥で燃えさかる怒りをどうにか押し殺した。

江村成宏――。

目の縁は赤く染まり、今すぐ八つ裂きにしてやりたいとさえ思う。

何か手を打たなければならない。

クルミの手術は、絶対に受けさせる。

その場でしばらく考え込んだあと、松原南はくるりと身を翻し、タクシーに乗り込んだ。

ひとまず会社へ戻るつもりだった。

「つまり、2か月分のお給料を前借りしたいということですか」

「はい。少し、事情がありまして……」

書類を取りに向かっていた特助は、ふいに聞こえてきたその声に足を止めた。

どこか聞き覚えがある。

――松原さん?

立ち止まったまま、わずかに開い...

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