第57章

荷物はそれほど多くない。スーツケース一つで十分だった。藤堂彰人が用意してくれたドレスには、一切手をつけなかった。

寝室を出る前に、私は心を決めた。

藤堂彰人はきっと私を行かせないだろう。でも、私はなんとかして彼に諦めさせなければならない。

部屋のドアを開けると、廊下は静まり返っていた。

藤堂彰人はリビングにいるのだろうと思い、どう切り出そうかと考えを巡らせる。

階段の踊り場まで来た時、藤堂彰人の優しい低笑いと、相沢怜の甘えた声が聞こえてきた。

「彰人さん、もっと強く抱きしめて。さっきは本当に怖かったの」

「大丈夫だ。俺がいる」

その瞬間、私の最後の葛藤さえも、笑い話になった。

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