第65章

かつて私の幸せが真実だったとしても、今の何倍もの痛みと憎しみもまた、真実なのだ。

裏切りだったと割り切ればいい。どうして、もう戻れない過去にこだわる必要があるのだろうか?

五年ぶりに訪れた橘の屋敷は、以前と大して変わりはなかった。

橘家は度重なる危機に瀕しており、父である橘剛の懐事情も近頃は芳しくない。屋敷の調度品は当然、青葉台の邸宅には及ばず、家具は古びていて、母がいた頃から使われ続けているものばかりだった。

相沢芳恵が住み着いてからも、新しいものに替えられることはなかったらしい。

いかにも貴婦人といった装いの相沢芳恵はソファの中央に座っていたが、物音に気づいて少し顔を上げたかと思...

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