第70章

大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。でも、お祖母様を心配させるわけにはいかない。

橘のお祖母様は沈んだ顔をしていたが、私の言葉を聞いてようやく顔を上げた。その瞳には、あまりにも多くの感情が渦巻いていた。

その真っ直ぐな視線に射抜かれ、私は今この瞬間にも逃げ出してしまいたい衝動に駆られた。

何よりも大切な人の前で、自分の惨めな姿を晒すこと以上に涙を誘うことがあるだろうか。

でも、私は逃げなかった。笑みを浮かべたままでいた。

少なくとも、もうあの苦しい思い出ばかりが詰まった二つの場所に戻らなくていい。脅される心配もないのだから。

「お前は、小さい頃から手のかからない子だった。でもね、杏...

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