チャプター 3

雨が病院の窓を激しく叩いていた。私はマンハッタン総合病院の無機質な廊下を駆け抜け、冷たい大理石の床に足音を響かせていた。ビリーの熱がまた少し上がっている。そして、もう時間がなかった。

「お願いします、どなたかお医者様はいませんか!?」この三十分で七つ目になる診察室へたどり着いたとき、私の声はかすれて割れた。だが、そこも空だった。ほかと同じように。

なんて馬鹿げているの――。病院中の医療スタッフが、イザベラ・スコットの『緊急事態』のために十八階へ呼び出されていた。看護師たちでさえ、ひそひそとその話をしていた。いつもの定期健診のために、出せる医師を全員そろえろと彼女が言い張ったこと。プライバシーのために、その階全体を立入禁止にさせたこと。

震える手でもう一度スマートフォンを確認する。ヘンリーからの不在着信はない。あるはずがない。彼は上でイザベラと一緒にいるのだろう。まるで壊れものの磁器みたいに、まだ彼女を腕に抱いているに違いない。

私は壁にもたれ、どうにか呼吸を整えようとした。頭上では蛍光灯がじいじいとうなり、人気のない廊下にきつい影を落としている。七階分――七つの階を探し回ったのに、息子を助けてくれる医者はひとりも見つからなかった。

「考えて、ソフィア」私は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。「誰かいるはず……」

絶望に気を取られたまま角を勢いよく曲がった瞬間、私は真正面から誰かの胸にぶつかった。

「すみません、前を見ていなくて……」一歩下がりながら、私は謝ろうとした。

「ソフィア!?」

私ははっと顔を上げた。針金縁の眼鏡の向こうにある、見覚えのある温かな茶色の瞳と目が合う。

「サンダース?」私は驚いて息をのんだ。

トーマス・サンダースが目の前に立っていた。白衣は少しくたびれ、手には患者カルテ。胸には『内科部長』の札が下がっている。記憶の中より年を重ねて見えたけれど、その穏やかな表情は変わっていなかった。

「こんな時間に、どうしたんだ?」そう言いかけて、彼は私の涙に濡れた顔に気づいた。「ソフィア、何があった?」

私は彼の腕をつかんだ。「説明している時間はないの。お願い、とにかく一緒に来て!」

私の言葉を聞くと、トーマスは一瞬もためらわなかった。私に半ば引っ張られるようにしながら、ビリーの病室へついてくる。私は切羽詰まった調子で、言葉を途切れ途切れに吐き出した。「高熱が出て……けいれんも……どのお医者様もつかまらなくて……」

一六三〇号室に入った瞬間、トーマスは昔の医学生仲間から、完璧な医師の顔へと切り替わった。彼はきびきびと無駄のない動きで、ビリーのバイタルを確認する。

「熱がここまで高くなって、どれくらい経つ?」

「三十分くらい……」私はやっとのことで答えた。「みんな十八階に呼ばれていて、その……」

「イザベラ・スコットの健診だろう」トーマスが言葉を継ぎ、その顎が固く引き締まった。「あの茶番のことなら聞いている」慣れた手つきで注射を打ちながら、彼は続けた。「これで熱は少し下がるはずだ。でも、それだけじゃ足りない。ついて来てくれ」

彼はビリーをそっと抱き上げて言った。「地下にフィットネスルームがある。ひどい高熱のときは、管理しながら軽く体を動かして汗を出させることで、熱が早く引くこともあるんだ」

私は彼のあとを追ってエレベーターへ向かった。トーマスはビリーにやさしく話しかけ、自分が何をしているのかを五歳の子にもわかる言葉で説明していた。ビリーの目は熱でうつろだったけれど、そのやわらかな声に、かすかに笑みを浮かべた。

その時間の地下のジムは、ひっそりと無人だった。トーマスはビリーのバイタルを絶えず見守りながら、無理のないやさしい運動をいくつか私たちに指示した。少しずつ、ほんとうに少しずつ――ありがたいことに、熱は下がり始めた。

「よく頑張ってるぞ、えらい子だ」ビリーの熱がようやく一〇三度を下回ると、トーマスはそう褒めた。「君の年ごろの僕より、ずっと勇敢だよ。僕なんて扁桃腺を取ったとき、一週間も泣いていたんだから」

ビリーはかすかにくすっと笑った。「ほんとに? でも、トーマス先生はお医者さんでしょう!」

「そうだよ。――それにね、いちばん勇敢な患者が、いちばんいい医者になるんだ」

二人のやり取りを見つめながら、胸の奥がじくりと痛んだ。ビリーが生まれてからの五年間、あの子がこんなふうに男性と心を通わせる姿を、私は一度も見たことがなかった。ヘンリーが、それを許さなかったからだ。

ヘンリー――その名を思うだけで、意識は五年前の、あの雨の夜へと引き戻される……。

私は華やぎも祝福もないまま、ヘンリー・ハーディング夫人になった。結婚式はなく、祝いの言葉もなく、正式な発表すらなかった。ただ裁判所で、弁護士と公証人だけが立ち会う、ひっそりとした式を挙げただけだった。

あの日、トーマスがハーディング家の屋敷の外で待っていたことを、私は知っていた。きっと何時間も、雨の中で。窓から彼の車が見えていたのに、私はどうしても会いに行けなかった。何を言えばよかったのだろう。事業上の取り決めのために、ニューヨークでも指折りの権勢を誇る一族へ嫁ぐのだと? 結婚する相手は、別の女性を愛しているのだと?

「イザベラ・スコット」という名は、ハーディング家では禁句だった。そのことを私は、結婚して三か月後、痛いほど思い知らされた。後に立ち入りを禁じられることになるヘンリーの私室を、好奇心に駆られて見て回っていたとき、一枚の写真を見つけたのだ。

革装丁のキーツ詩集に挟まれていたその写真には、白いサンドレス姿のイザベラが、カメラの向こうにいる誰かに向かって、屈託なく笑っていた。縁が擦り切れていたのは、それだけ何度も手に取られてきた証だった。

私がその写真を手にしているところを見つけたときの、ヘンリーの怒りは、今もなお私を苛む。完璧な自制を失った彼を見たのは、あれが最初で最後だった。灰色の瞳を燃え立たせ、彼は私に出て行けと命じたのだ。「二度とこの部屋に入るな」と。「私のものに触るな。彼女の名を口にするな」

私は従った。ほかにどうしようがあっただろう。そのころにはもうビリーを身ごもっていたけれど、まだ誰にも打ち明けていなかった。そしてトーマスは……トーマスはすでにケンブリッジへ発っていた。家族に背を押され、海外で医学博士号を目指すために。彼は私の気持ちに気づくこともなかったし、手紙が途絶えるその日まで、私が一通残らず読み返していたことも知らないままだった。

「ソフィア?」

トーマスの声に、私は現実へ引き戻された。ビリーは体力を使い果たし、体育館のマットの一枚の上で眠りに落ちていた。呼吸はようやく、静かで規則正しいものになっている。

「ありがとう、トーマス」私はささやいた。「今夜あなたに会えなかったら……」

「ヘンリーはどこだ?」トーマスは静かに尋ねた。「病気の息子のそばに、どうしていないんだ」

私は笑おうとした。言い訳を並べようとした。「仕事が長引いていて、来られなくて……」

「ソフィア」

トーマスの声はやさしく、それでいて揺るがなかった。「君は昔から、嘘をつくのが下手だった。さっき彼を見たよ。みんな見ていた。ロビーでイザベラ・スコットを抱きかかえていた。まるで、この世でいちばん大切なものみたいに」

その言葉の真実は、殴られたような衝撃で私を打った。取り繕い続けた五年間。言い訳を重ね、いつかは変わると自分に言い聞かせてきた日々。そのすべてが、この夜の重みに押し潰されて崩れ落ちた。

「こんな結婚を、君は望んでいたのか、ソフィア?」トーマスはやわらかく問いかけた。「あの日、僕から背を向けたとき、君が選んだ人生はこれだったのか?」

私は眠る息子を見た。無防備で、私を信じきっているその寝顔を。それから、ためらいなく私たちを助けてくれたトーマスを見た。そして最後に、天井を見上げた。その上のどこかで、ヘンリーは今もイザベラの気まぐれにひとつひとつ応えているのだろう。

答えは喉につかえたまま、薬のように苦かった。

いいえ、こんなの、私が望んだものじゃない。

そう心の中で言うことしか、私にはできなかった。

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